『株主総会のIT化』
H.14.11.20
報告者 M1
インターネットに代表されるコンピュータ・ネットワーク網の整備、IT革命と呼ばれる情報技術の飛躍的な進歩、暗号技術の利用によるセキュリティの確保等に支えられた高度情報化社会の到来等により、電子商取引が普及し、企業が国際的な競争の場で生き残るためには、これに迅速かつ的確に対応することが求められている。そこで、商法においても、会社が作成することとされている書類や書面で行うべきこととされている通知・請求等について、電磁的記録によることができることとして、企業が高度情報化社会に対応する上で障害となる規制を廃止することが求められた。
会社を取り巻くこのような社会経済情勢を背景として、平成13年11月の商法改正において、会社関係書類と総会運営の電子化が実現された。当初は、平成14年商法改正でこうした措置が講じられる予定であったが産業界からの早期導入要請により、平成13年改正に一年前倒しされた。
この「会社関係書類の電子化等」については以下の4点があげられる。
1.会社関係書類の電子化
2.会社・株主間の通知等の電子化
3.株主総会における議決権行使の電子化
4.決算公告の電子化
1.会社関係書類の電子化
(1)会社関係書類の電子化とその態様
平成13年第2次改正商法による会社関係書類の電子化は、
◇情報の記録・保存方法の電子化・・・一定の関係情報を記録等する媒体につき書面に代えて
電磁的記録を用いることを許容するもの
◇情報ないし意思の伝達手段の電子化・・・請求・通知等の方法として電磁的方法の利用を書
面に代替するもの(デジタル・デバイド[i]や請求等の受け手側における受け容れ態勢の有無にも法的配慮が施されており、書面による場合とは異なる手続きを要求)
という2側面に大別されるが、こうした会社関係書類の電子化は、一部の書類等については改正前商法のもとで可能とされていた。
(例)・株主名簿は、平成13年第2次改正商法前より学説上、これをコンピュータにより作成し株主名簿の記載事項をコンピュータのハードディスク等に記録している場合でも、それが常時、表示・出力できる状態にあれば、これをもって株主名簿の作成義務が履行されたものと解するのが多数説であり、実務の対応であった。
・商32条1項にいう「商業帳簿」も、容易に見読可能の状態に置きうることを条件として書面によらず電磁的記録をもって作成し、この記録の保存をもって商業帳簿の作成・保存義務(商32条1項、36条1項)の履行と認めてよいと解するのが多数説であった[ii]。
その一方で、電磁的記録をもって作成・保存されている会社関係書類の備置きや閲覧等の方法、署名が要求されている場合における署名の代替策、商業登記申請書の添付書類でもあるものについての取扱いなど解釈だけでは十分に対応できない問題が残されたことから、立法的に手当てすべきことが求められていた。そこで、平成13年第2次改正では、会社関係書類の大半につき電磁的記録による作成・備置き等が行える旨を明文で規定し、併せて署名・閲覧等についても所要の手当てを施すとともに、商法上、書面によることが要件とされていた請求・通知等についても、諸外国の立法例や上述のように、いわゆる社会・経済のIT化の進展等を受け、これを電磁的方法(商130条3項)により行える旨を定めることとした。
(2)情報の記録・保存方法の電子化
@ 電磁的記録による作成等
平成13年第2次改正商法では、多くの会社関係書類が電磁的記録をもって作成等できることとされている。株式会社にかんして主要なものを挙げると、表1の通りである。
なお、会社関係書類の電磁的記録による作成等について、平成13年第2次改正商法では、
2つの根拠規定が用いられている。
(a) 商人が電磁的記録をもって会計帳簿・貸借対照表を作成し得る旨を定める
(商33条ノ2第1項)
→定款、各種名簿・議事録、貸借対照表、利益処分(損失処理)案など会社関係書類のうち「書」の文字が付されていないものについて同規定が準用されている。
▽こうした書類はもともと電磁的記録をもって作成し得るところ、これを法文上確認するものであるとされている。
(b) 株式会社の損益計算書・営業報告書を電磁的記録により作成し得る旨を定める
(商281条3項)
→株式交換契約書や合併契約書など会社関係書類のうち「書」の文字が付されており、それゆえ改正前商法のもとでは書面により作成すべきことが要求されていたと考えられるものについて同規定が準用されている。
▽この種の書類については、その定義・概念として電磁的記録が含まれることを法律上明らかにするために、電磁的記録への記録をもって当該書類とみなし、且つ当該電磁的記録への記録をもって当該書類への記載とみなす旨を規定するものであるとされている。
また、上記の規定を置いた上で、他の書類についてはこの規定を準用している。
ところで、会社関係書類の電磁的記録による作成等について、法務省民事局参事官室公
表の「商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案」(平成13年4月18日)(以下中間試案と略称)の第24の2では、商法等の規定により会社が保存し、また備置くべきものとする書類が「最初の記録段階から一貫して電磁的記録により作成され、当該書類の作成に代えられた場合」にあっては、当該電磁的記録の保存または備置きに代えることができるものとする旨が提案されていた。改正法の文言上、そうした制約は付されていないが、中間試案がこうした要件を課した理由として以下の2つが挙げられる。
(a) いったん紙で作成されたものを電磁的記録に変換する際に改竄の恐れがあること
(b) 紙の上に記載された署名を電磁的記録上に移すことができないこと
とされている。改正法も中間試案と同様、電磁的記録の保存または備置きをもって当該書類の保存または供置きに代えることができることとするための要件として「当該書類が最初の記録段階から一貫して電磁的記録により作成されたものであること」を要求しており、それを当然のことと考え、要件としては明定されなかった。
A 電磁的記録の意義
平成13年第2次改正商法が会社関係書類の作成媒体として認める「電磁的記録」とは、
「電子的方式、磁気的方式その他の知覚をもって認識することができない方式により作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるもの」とされている(商33条ノ2第1項)
B
署名が要求される場合の代替措置
会社関係書類の中には、貸借対照表や各種議事録、監査報告書(大会社)等のように作
成者等の署名が法律上要求されているものがあり、これらが電磁的記録をもって作成された場合は、当該記録媒体に記録されたデータ(情報)として存在するだけであるから、署名に代わる措置が必要となる。そこで商法は、作成者等が電磁的記録に記録された情報に、署名に代わる措置として法務省令に定めるものを施すことを要する旨を定めた上で(商 33条ノ2第2項と同規定の準用)、その具体的方法が商法施行規則において定められており、署名の代替措置は「電子署名及び認証業務に関する法律」 2条1項にいう電子署名とされている。なお、ここで要求される電子署名は電子認証を受けることを要しないとされている。
(3)備置き・閲覧等
@ 電磁的記録の備置き
電磁的記録で作成された会社関係書類についても、当該書類が本店等での備置きを要す
るものである場合は、当該電磁的記録を書面により作成した場合に備え置くべき場所と同じ場所に備え置くべきものとされている(商 239条6項、239条ノ3第7項、244条5項、260条ノ4第5項、263条1項、282条1項、354条1項、360条1項、366条1項、 371条、374条ノ2第1項、374条ノ11第1項、374条ノ18第1項、374条ノ31,408条ノ2第1項、414条ノ2第1項など)。もっとも備置き義務は、株主等の閲覧等の請求に会社が応えるための前提として取締役に課されたものであるから、株主等が所定の場所でいつでも電磁的記録の内容を閲覧等できる状態にあれば必要十分である。ゆえに、フロッピー・ディスクや CD−ROM等の電磁的記録を用いた場合は、そのディスク等そのものが本店等に備え置かれている必要があるが、会社のホストコンピューターのハードディスク等に当該情報が記録されている場合は、株主等が所定の場所でいつでも端末を通じて閲覧や謄写等を行える状態にある限り、電磁的記録の媒体そのものが本店等に存在しなくとも、右端末の設置をもって当該電磁的記録を備え置いたものとして扱われる。
A電磁的記録の閲覧等
備置き書類については、株主等がその閲覧等を行えるものとされている。株主が有する書面の閲覧等の権利行使に障害が生じないように、手当てがなされる必要がある。この点、中間試案の第24の3では、会社関係書類の閲覧・謄写請求権を有する者が、当該書類の電磁的記録を保存または備え置くべき義務を有する者に対し、当該電磁的記録を相当の期間内に明確かつ容易に読むことができる書面に出力することを請求することができるものとする旨を提案していた。会計帳簿及び資料が電磁的記録により作成されているときは、権利者は電磁的記録の内容を法務省令に定める方法により表示したものの閲覧または謄写を請求できる(商 293条ノ6第1項2号)。法務省令に定める方法により表示したものの閲覧とは、コンピュータの画面に表示されたものの閲覧を意味すると説明されており、コンピュータ画面の「謄写」が、表示画面の謄写(ハードコピー)を意味するのか、電磁的記録の情報を書面その他の媒体に出力するよう請求できるかは必ずしも明らかではない。なお、情報取得方法として、以下のものが挙げられる[iii]。
1)会計の帳簿及び資料の情報取得と同じ方式が用いられるもの(⇒謄写請求が認められているもの)
・株主名簿・社債原簿(263 条3項)
・株主総会議事録(244条6項)
・取締役会議事録(260条ノ4第6項2号)
2)定款が電磁的記録により作成されているとき
a.情報をコンピュータの画面に表示したものの閲覧
b.情報の内容を記載した書面の交付(←デジタル・デバイドに対する配慮)
c.電磁的方法で法務省令に定めるものにより提供すること(←具体的方法は明らかにされていないが、Eメール、ウェブサイトからのダウンロード・フロッピー等の交付など)
の請求をすることができる(商263条2項4号)。
3)定款の情報取得と同じ方式が用いられているもの(謄抄本請求が認められているもの)
・計算書類・監査報告書(282条2項)
→株式会社の定時総会の招集通知に添付されるが、これらについては添付をやめ、電磁的方法により提供することができる( 283条3項)ただし、株主の請求があるときは、従来どおり書面を株主に交付しなければならない。
・会計監査人の監査報告書(監査特例15条)
2.会社・株主間の通知等の電子化
(1)書面による請求・通知等の電子化
商法上、書類の交付が行われる場合はもとより、請求・通知・催告が行われる場合に、これを書面をもって行うことを要するものとされる場合が多い。これらの規定が書面性を要求している理由は、主に、その法的安定性を考慮したものと考えられるが、現在の情報通信技術の発展や、現にこのような技術を用いた電子商取引が活発に行われているという現状を考えると、立法論としては書面をもって行うことに代え、一定の電磁的方法により通知や請求を行うことも許容すべきであった。そこで平成 13年第2次改正商法は会社関係書類等の電子化の一環として、情報の提供や請求・通知・催告を書面に代えて電磁的方法により行うことができることとした。(これは、招集通知を電磁的方法によって行うことによって、費用や手間が大幅に削減できるということである。)
この詳細は表2に示した通りであるが、従来書面によることが要件とされてきた請求・通知等の多くについて電子化が実現した。
ところで、改正法がこうした請求等につき書面に代わる方法として認める「電磁的方法」とは、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法にして法務省令に定めるものをいう(商 130条3項)。
これは施行規則では
(a) 送信者の使用に係る電子計算機と受信者に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法であって、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報が記録されるもの
具体例:インターネット等を通じてする電子メールの送信
当該情報をウェブサイトに掲示し、これを閲覧・ダウンロードさせる方法
(b) 規則2条に規定するファイルに当該情報を記録したもの
具体例:当該情報を記録したフロッピー・ディスクや 等の電磁的記録を交付する方法
が該当するとされているが(商施規5条1項1号・2号)、これらは受信者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成することができるものでなければならない(同条2項)。
(2)電磁的方法の利用に係る承諾の必要
会社等から株主等に対する通知等や株主等から会社等に対する請求が電磁的方法により行える場合でも、デジタル・デバイドや通知等の受け手の側における対応等の問題があるため、商法は電磁的方法の利用に当たっては、法務省令に定めるところに従い電磁的方法による通知等を受ける者から書面または電磁的方法により承諾を得ることを要するものとしている(商 204条ノ2第2項等:譲渡制限会社における譲渡承認手続きについて規定したものであるが、同項は株主が、書面をもって行う譲渡承認の請求に代えて政令の定めるところにより会社の承諾を得て、その書面に記載すべき情報を電磁的に提供することができることとし、この場合においてはその株主は同条 1項の書面による請求をしたものとみなすものと規定している。)
なお、会社は、電磁的方法により招集通知を受けることに承諾をした株主に対する関係では、当該株主が電磁的方法により議決権行使や各種通知・請求等を行うことについて、正当理由[iv]がない限り、その株主の承諾した電磁的方法による招集通知に係る株主総会の会日の属する営業年度の決算期に関する定時総会の終結に至るまでは承諾を拒絶できない(商 204条ノ2第3項とこれを準用する 239条ノ3第5項後段、239条ノ4第2項等)。
実務上、会社は招集通知を電磁的方法により受領している株主に限り、電磁的方法によ
る請求等につき承諾を与えることとするとしている。
また、電磁的方法の利用に係る承諾については、会社が承諾を拒絶することを制限され
る場合を除き、承諾を与えた者が書面または電磁的方法でいつでも承諾を撤回できるものとされており、その場合は電磁的方法を利用することができないこととなる(承諾手続令3条乃至13条の各第2項本文)。但し、いったん承諾を撤回した者も、再度、電磁的方法の利用につき承諾をし直すことができる(同条各第 2項但書)。
(3)効力発生時期
電磁的方法による通知や請求も、法律行為又は準法律行為に当たるものとして、民法97条 1項により、原則として、相手方への到達によって効力を生じることになる。
ところで、商法は、集団的法律関係を簡易・迅速かつ画一的に処理するため、会社から株主に対して行う通知・催告については、書面をもって行われるものかどうかを問わず、実質的な発信主義を採用している(商 224条)。その趣旨とするところは、電磁的方法による通知・催告についても等しく当てはまるものであることから、この場合を同条の適用対象の枠外におくことは困難である。もっとも、電磁的方法による通知や催告の場合、相手方の保護という要請は、書面や口頭による場合と比較して、より重視されなければならないことから、同条のように実質的な発信主義を採る場合には、その要請は強く働かざるを得ない。そこで平成 13年第2次改正商法は、通知や請求について書面性が要求されている個別の場合だけではなく、この商224 条においても、同種の規定を置くこととし(改正後の同条2項) 、同条が規定する実質的な発信主義の恩典を会社が受けるためには、個別の規定の場合と同様に、政令の定めるところにより、相手方の承諾を得て行う必要がある旨を定めている。
【参考文献】
・ あさひ法律事務所編『株主総会IT化の法律と実務』中央経済者(2002.3)
・ 江原健志「会社運営の電子化」『ジュリスト』No.1220,38頁(2002.4)
・ 江原健志「平成13年商法改正に伴う政令・法務省令の制定〔上〕」『商事法務』No.1627,4頁(2002.4)
・ 小塚荘一郎「株式会社運営の電子化・IT化」,『法学教室』No.264,41頁(2002.9)
・ 中村芳夫編『改正商法ハンドブック』清文社(2002.9)
・ 中村信夫「会社関係書類と総会運営の電子化」『判例タイムズ』No.1093,67頁(2002.8)
・ 原田晃治「平成13年改正商法について-株式制度の改善・会社関係書類の電子化等-」『監査役』No.460,15頁(2002.6)
・ 原田晃治「平成13年改正商法(11月改正)の解説〔T〕」『商事法務』No.1635,4頁(2002.7)
・ 前田庸「商法等の一部を改正する法律案要綱の解説(下)」『商事法務』No.1607,67頁(2001.10)
[i] 社会の情報化が進むことによって生まれる生活格差のこと。情報技術の発展により生活が豊かになる可能性がある反面、情報機器を使いこなせない人達や情報機器が提供されない地域の人達と、情報機器を使いこなす人達や情報機器が提供される地域の人達の間に知識や経済面での格差が生じる現象
[ii] 最高裁平14.1.22:改正法の成立後、最高裁は、詐欺破産罪(破374 条3号)の構成要件の解釈において、「直ちにプリントアウトできることなどによって、可視性、可読性が確保されている限り」、電磁的記録による総勘定元帳ファイルも「商業帳簿」に含まれると判示し、このような理解を確認した。
[iii] 請求者自身が手書きによる筆写や写真撮影の方法で写しを作成する「謄写請求」と、会社が写しを作成する「謄抄本請求」とを区別した上で、@謄写請求・・・株主等が電磁的記録に記録された情報の内容を法務省令所定の方法により表示したものを謄写することの請求を行えるものとする(商 239条7項、244条、263条3 項乃至5項等)。なお、法務省令所定の方法とは「紙面または出力装置の映像面に表示する方法」(商施規 7条)である。A謄抄本請求・・・電磁的記録で作成されている場合であっても、株主等は会社に対し記録情報の内容を法務省令所定の方法で表示したものの閲覧か、またはその情報内容を出力した書面を交付すること、もしくは当該電磁的記録に記録された情報を電磁的方法にして法務省令で定める方法により提供することを請求できるものとされている(商 263条2項、282条2項、他)これは、電磁的方法で法務省に定めるものにより提供することの請求も行えるとされているが、その方法は、施行規則 5条1項各号所掲の方法のうち会社が定めるものとされている(商施規9条)。会社がインターネットの方法を選択すれば、株主等は備置き場所まで自ら赴かなくとも、自宅等のパソコンを通じ電磁的方法で必要情報の提供を受けることが出来るようになる。
[iv] 正当の理由とは、株主の申し出た電磁的方法が会社において対応できない種類のものである場合や、株主等から送られた電子メールがウィルス感染しており、会社等のコンピュータのウィルス・ガードで削除等される場合等を指すとされているが、法がこのような承諾拒絶制限を定めるのは電磁的方法の利用促進という政策的理由によるものとか、公平の観点によるものと説明されている。