34 国際航空

   国際法 H10.6.8 水野恒夫

〈空域主権〉

1 空域の法的地位に関する学説

 主として、国家が領域上の空域を領有するか、万国の航空機のために解放するか、という「空域の領有権」の問題として扱われ、その論争は、1901年のフランスの国際法学者フォーシィュ Paul Fauchille の論文で始められた。

空はその下にある国(下位国)が領有しないという意味で「空は自由である」とする自由説。空はその下にある国が領有するという主権説に大別できる。さらに細分すれば、自由説は 〜 、主権説は 〜 のようになる。

  全部、完全に自由(絶対的自由説:ナイス E.Nys)。

  自由であるが、下位国は一定の高さまで権利を主張する(相対的自由説)。

  自由であるが、下位国は高さ制限なしに特別の権利を行使できる。

  下位国が高さ制限なく領有する。

  下位国は高さ制限なく領有するが、万国の航空機は無害通行の権利を有する。  下位国が一定の高さまで領有する。

はじめは国際社会の発達と反映のため「空の自由」を認める必要があるとする立場から、自由説が有力であった。しかし、その後、航空機飛行と下位国の利害関係を考慮し、「国際航空の自由」よりも、個々の国家の安全その他の利益保護を重視する主権説が、実現可能なものとして、今世紀初頭の多数意見として採用された。

現在は、商業航空の飛躍的発達に伴って、各国は、原則として空域主権の立場をとりながらも、外国航空機に自国の空を解放し、事実上「空の自由」を認めるに至っている。又、宇宙開発に伴う空域主権の制限の面からも、主権説は再検討をしなければならなくなっている。

2 Cujus est solum の原則と空域主権

 「Cujus est solum」とは、「Cujus est solum, ejus est usque ad coelum

et inferos(土地所有者には土地の上は天空まで、下は地底までが所属する)」という法格言。イギリスのコモン・ローを始め各国国内法で採用された。

 この原則は、他の諺、Qui Solum habet,coelum habet(土地をもつ者は空をもつ)、Dominus soli,dominus coeli(土地の所有者は空の所有者なり)と共に、空を所有することの有力な思想的根拠となっている。そして、今日、土地所有権の上空支配権を認めることを、「Cujus est solum の原則」の承認という。

 国家の領域上空への権利についても、私法の「Cujus est solum の原則」を類推適用し、国家の絶対的領有権が主張された(リクラマ Lycklama)。

 又、国際法上の空の地位を国内法と切断し、20世紀初頭以来、航空との関係で国家間に発達してきた一般国際慣習法上の原則に基づくとの説がある。

3 領空上空と接続空域の法的地位

(1)領空上空

(縦の限界)

:各国は「領域上の空間において・・主権を有する・」(国際民間航空条約1条)

 ・(マクネア McNair によると、)

第一説は、航空機の達しうる高度を限界とする。

第二説は、空気の存在しなくなることをもってその限界とする(ビン・チェン)。

第三説は、限界を画することを否定し、無限とするもの。

第四説は、人工衛星の最低高度をもってその限界とするもの(マクネア)。

第五説は、下位国の実行ある支配の限界をもって限度とする。

※1966年、国際法協会は、ヘルシンキ会議で、「領空主権は人工衛星の最低軌  道までは及ばない」との決議案を採択した。

※航空技術の発達は、空気の希薄度を克服してその可能性を拡大しつつあり、  領空の上限は航空の可能性をもって画されるべき→第一説

                     (坂本昭雄「国際航空法論」27頁)。

(横の範囲)

:「この条約の適用上、国の領域とは、その国の主権、宗主権、保護又は委任統  治の下にある陸地及びこれに隣接する領水をいう」(国際民間航空条約2条)

・「領水」は、一般に内水と領海からなり、

  領海は、基線の外側12海里以内。

  →1982年の海洋法条約3条:「各国は、12海里を超えない範囲で、その領海の   幅を定める権利を有する」。我が国の領海法1条も12海里を領海とする。

排他的経済水域(海洋法条約)は、「隣接する領水」に該当しない。

※現行法は、国家の領土上の空域におけると同様、絶対的な領有権を沿岸国に  与えている。上空からのスパイや奇襲攻撃の危険をおそれるため、領海にお  ける外国船の無害通行権のような、外国機の無害通行権は認められない。

   わずかに、国際海峡の上空において「通過通行」としての上空以降が認め  られるのみ(国連海洋法条約38条)。

公海は、いかなる国の航空機もその上空を飛行する自由を有する(1957年の  公海条約2条)。海洋法条約でも、公海上空の飛行の自由を明文化。

 ただし、公海条約では、公海とは領海及び内水以外の海洋の全てとしてい  るのに対し、海洋法条約では、公海に対する概念として、排他的経済水域と  群島水域を生み出している。

(2)接続空域

1950年アメリカ政府は、国家の安全のため、領海上空に管轄権を持つことを宣言し、公海上空にまで及ぶADIS(防空識別圏)と呼ばれる空域について定めた。ADIZに外国機が入る場合、位置報告をしなければならないとされている。その後多くの国が、沿岸から一定の幅の公海上空の空域に、ADIZを設定している。我が国も、1966年以来、内側を沿岸から100キロメートル以内、外側を400ないし600キロメートルの防空識別圏が設定された。これは自衛隊内部の訓令として事前の飛行計画報告を義務付けたに過ぎないが、実際には圏内に航空機が入ると、レーダーで追跡し、国籍不明機を警戒する。

 ADIZは、これまでの公海自由の原則に対する修正となる。

接続水域が認められる以上、その上空にもある管轄権を沿岸国に与えるべき。

〈国際航空の自由〉

1 「五つの自由」

:商業航空権又は運輸権に関して、「五つの自由」と呼ばれるものがある

(国際航空運送協定(IATA)1条)

  外国領域を無着陸で横断する自由(上空通過の自由)

  運送以外の目的で外国領域内を着陸する自由(技術着陸の自由)

  自国からの貨客を外国で降ろす自由(自国からの積み卸しの自由)

  外国において自国向けの貨客を積み込む自由(自国への積み卸しの自由)

  外国と外国との間において運輸を行う自由(第三国間輸送の自由)

2 パリ条約前の国際航空の自由

1910年のパリ国際航空会議

:フランスの招致による国際航空についての最初の国際会議で、ヨーロッパの18カ国が参加した。国際航空の問題についての国家の公的立場が初めて明らかにされた。パリ国際航空会議では、外国航空機の離着陸と航空の自由の問題が取り上げられたが、各国間の合意が得られないままに流会となった。

・1910年代は、当時のヨーロッパの軍事情勢を反映して、国際航空の問題は主として軍事的見地から捉えられ、国家の安全のために外国軍用機の飛行が一切禁止された。軍用機以外は、国内法に定める一定の条件の下に許されていたが、その航空の自由はかなり制限されたものだった。

3 1919年のパリ国際航空条約

第一次世界大戦後、戦勝国27カ国で採択され、1919年10月、24カ国が調印した。その後、1937年には加盟国は32カ国となった。

 国家の空域主権が明文で承認すると共に、条約国間の私航空機の無害的通行の自由を認めた。「空の自由」を定めた最初の多数国間条約。

主に国家の安全を考慮して、国家領域上空への完全かつ排他的な主権を承認した(1条)ほか、国家の安全と両立させながら、国際航空に最大限の自由を与える必要のあることを認め、外国民間機に、平時その領域上空での無害通行の自由を与え(2条)、外国機の無着陸飛行の自由と着陸の自由を認めている(15条)。

4 シカゴ国際民間航空条約(1944年)

 国際航空に関する一般原則、国際民間航空機関(ICAO)の設立文書として、その組織及び任務を規定し、これにより、国際民間航空制度が確立された。同時に、国際航空業務通過協定と国際航空運送協定が締結された。

(1)シカゴ条約の定める国際航空制度

条約当事国がその領空を一定の制限の下に他の当事国の航空機のために互いに開放することを定めた。

しかし、定期国際航空業務(商業航空)に関しては領域国の特別の許可が必要、許可なくその上空の通過又は乗り入れは認められない(6条)。

従って、シカゴ条約で領域国を事前の許可なしに飛行する権利が与えられるのは、条約当事国の不定期民間航空機に限られる。これは、領域内への飛行、その上空の無着陸横断、運送以外の目的での着陸を含むが、領域国から着陸の要求がある場合、それに従わなければならない(5条)。

パリ条約が「国際商業航空の自由」について、詳しい規定を作らなかったため、国際商業航空の発達に十分対応することができなかった。その反省にたって、1944年のシカゴ会議は、定期的な国際航空の自由に対する国家間の合意を得るための努力をしたが、条約文中に何ら定めることができなかった。

一方、不定期の国際航空の自由については、「事前に許可を得ることを必要としないで」これを与え、さらにこの自由は、不定期の国際商業航空にも適用されることになった。しかし、同時にその上空を飛行される国家の「規制、条件又は制限」が課せられることになっている。

そこで、定期商業航空及び不定期商業航空の自由は、以後の二国間協定、多数国間条約で解決を図らねばならないことになっている。

(2)航空の自由に対する制限(定期国際航空に関するものの他)

 領域国は、外国航空機に対し自国領域内の二地点間の旅客、郵便物及び貨物の運送を有償又は貸切で行うこと(air cabtage 国内航空運輸)を禁止できる。(7条)

  領域国は軍事上の必要又は公共の安全のため、外国航空機の一定区域上空の飛行を一律に制限又は禁止できる(9条)。外国航空機は領域国の上空をその事前に許可なく軍需品又は軍用機材を輸送してはならない(35条)。

 シカゴ条約の適用を受けるのは、当事国の国籍を持つ民間航空機に限られ、国の航空機(軍、税関、警察用など)には適用されない(3条)。

 無操縦者航空機は、領域国の特別の許可がない限り、その上空を飛行できない(8条)。

  航空機に関する領域国の法令は、領域内では全ての条約当事国の航空機に適用される(11条)。無着陸横断飛行の場合を除き、当事国の領域に入る全ての航空機は、その国の規則に従い税関その他の検査を受けるため、指定された空港に着陸しなければならない。出国の時も指定された税関空港から出発(10条)。

条約の定める要件に合致する一定の書類(登録証明書、耐空証明、各乗務員の免許状、航空日誌、航空無線局免状、旅客名簿、積荷目録及び貨物の細目申告書)を携行しなければならない(29条〜34条)。

〈国際民間航空機関(ICAO

  International Civil Aviation Organization)〉

 シカゴ条約により、国際航空の原則及び技術を発達させ、国際航空運送の計画及び発達を促進するために設立(43条)され、国際連合の創設とともに、国連の専門機関の一つとなった。

 1994年現在、174カ国。名実ともに世界的規模の国際航空条約となった。日本は1953年に加盟。本部はモントリオール

目的) 国際民間航空の安全かつ整然たる発展の確保

     航空路、空港及び航空保安施設の発達の奨励

     不合理な競争によって生じる経済的浪費の防止

     国際航空における飛行の安全の増進        に重点。

主要機関

 ・総会 :構成員である全ての締約国の代表で構成。

      通常総会と臨時総会がある。

 ・理事会:総会選出の33の締約国(理事国)で構成。3年ごと選挙。

 ・航空委員会、航空運送委員会、法律委員会、共同維持委員会、財政委員会

 ・事務局

活動)航空機に求められる迅速性と安全性のうち、安全性の要求に応えるため、    航空に関する諸規則の標準化を図り、国際標準、勧告方式、手続の三種    の基準細則を作成。

大韓航空機撃墜事件(1983年9月1日)

:旧ソ連の撃墜行為がICAOの定める領空侵犯に対する要撃(interception) 基準に合致するかが争われた。同事件を非難したICAO理事会は、民間航空 機に対する武力使用の抑制などを柱とした「3条の2」を追加する改正をした。

 (1984年、ICAO第25回臨時総会で改正議定書を作成。批准国1992年12月末  現在で68カ国:シカゴ条約の改正は、ICAO加盟国の2/3以上が議定書  を締結した時に、締結国につき発行する)。

〈商業航空:定期国際航空〉

1 国際航空業務通過規定(IASTA)

 1944年、26カ国。1947年、36カ国。1976年、91カ国。1992年、100カ国。

 「第一と第二の空の自由」(上空通過の自由、技術着陸の自由)締結国間で許与しあうことを多数国間条約の形で定めたもので、「空の自由」について何ら定めるところのなかったシカゴ条約に代わるもの。又、パリ条約が1925年の改正で下位国の事前の許可を要求することとなったため、事実上、定期国際航空の自由を否定する結果となったのと比べ、明らかな前進といえる。

2 国際航空運送協定(IATA)

各締結国が定期国際航空業務に関し、他の締結国に「五つの空の自由」を与えると定める。しかし、いくつかの制限を加えている。

 1944年、16カ国。1946年、28カ国。中南米の国中心で、ヨーロッパからはギリシャ・オランダ・スウェーデンの三カ国に過ぎず、アメリカは1946年脱退しており、協定は事実上死文化している。

3 二国間協定

 シカゴ条約、及び同時に結ばれた多数国間条約が、以上のような状態のため、国際商業航空については、個別的に行われる二国間の合意が必要であり、通常二国間の航空協定、又は関係国の特別の許可によって行われる。

(1966年末、ICAOに登録されているものだけで1248。1970年には約2500。)

シカゴ標準方式

五つの自由全てを含む実効的な多数国間航空協定成立の見通しが薄いことは、1944年当時、シカゴ会議でも十分予想され、シカゴ条約は最終議定書で「シカゴ標準方式」を定め、各国に採用を勧告した。

(内容)

「標準方式」は、「締結国は本付属書で国際民間航空の路線と業務の開設に必要と定められている諸権利を与える」とし、付属書に、路線ならびに通過・非商業的着陸又は(場合により)商業的飛行の権利、それに伴う諸条件が記載される。非商業的着陸の場合、着陸する空港、商業権が与えられる場合には乗客・貨物・郵便物の積み込み・積み卸しの商業権が与えられる空港が示される。

又、空港使用料及び燃料・部品などの関税についての内国民待遇の許与・対空証明書・技能証明書・免状の相互承認を定める。

1957年までに成立した654の協定のうち546が、従っているといわれる(「シカゴ型協定」)。しかし、輸送力についての原則、運賃の決定には何も触れていない。

バミューダ協定(1946年、英米間で結ばれた。1977年に新協定)

第二次世界大戦後の国際商業航空について指導的役割を果たした英米二国間で、1949年に成立。輸送力についての原則、運賃決定方法についての合意がなされた。その内容は「バミューダ原則」として、付随する事後審査法式と共に、その後の定期航空に関する二国間協定に大きな影響を与えた。

 

【参考資料】

・坂本昭雄「国際航空法論」(有信堂、1992年)

・城戸正彦「空域主権の研究」(風間書房、1981年)

・城戸正彦「領空侵犯の国際法」(風間書房、1990年)

・迎増兼「民間航空機への武力行使」(勁草書房、1993年)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈在日米軍について〉

・在日米軍地位協定における空域の提供に関して

3条1項:「日本国政府は・・米軍の基地の出入りの便を図るため・・空間にお      いて関係法令の範囲内で必要な措置を執るものとする」

3条2項:「日本国の領域への、領域からの又は領域内の・・航空」に関する原     則を規定

24条:「路線権」が米軍に与えられている。

→米軍機の日本国領空使用権

 

・航空法における除外規定、例外規定又は変更規定(地位協定・在日国連軍地位 協定の実施に伴う航空法特例法(1952年法律第232号))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ストラスブルク基準条項

1959年にストラスブルグで行われた欧州民間航空会議の第三次会合で採択されたもので、二国間航空協定の内容の同一性を図る目的で作成されたもの。二国間航空協定の内容のうち、主に協定の管理面・技術面についての標準化を図ったもの。勧告として欧州民間航空会議加盟国に提案され、さらに国際民間航空機関の理事会に提出された。

4 行政許可による航空業務

5 カボタージュ

〈不定期航空〉〈〉

(主要国の立場)

フランスは、ドイツからの気球の侵入事件に重大な関心を持っていた。ただ、空域の法的地位につき抽象的議論を避け、航空の自由を認める前提の下、国家は自国の安全保障に必要な航空制限以外は、外国機に課すことができないという立場をとっていた。

ドイツは、条約案で非締結国航空機の無害通行権を否認した。又、自国の安全のため、他の締結国航空機の通行を制限しうるとしたが、その制限は自国機にも平等であるべきとした。航空技術の進んでいたドイツは、制限より、国際航空の自由を認める方が有利と判断していた。

イギリスは、自国領域上空への完全な国家主権の承認を求めた。

1912年独露両国政府間で、国境地帯上空の自国機飛行を全面的に禁止することを約束。

1913年独仏間に交換公文の形で「航空に関する合意」が結ばれ、各国の法規で定めた禁止区域外では、その領域への飛行・着陸ができるようになっていた。

(米国民間航空協会が使用した、第六の自由として、

  航空会社の属する国を経由して、出発地である外国内の地点から、到着地で  ある他の外国内の地点へ向けて行われる輸送、がある。)

 しかし、15条3項の「国際航空路の設定は被飛行国の同意を得なければならない」という規定は、1929年に改正された(「各締結国は自国領域上における国際航空路の設定、及び着陸を伴うと否とを問わず、国際定期航空路の創設及び利用につき、事前の許可の申請を要求することができる。」)。


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