1. 核兵器の使用と国際法

平成1012月7日 水野 恒夫

 

【核兵器使用の合法性(違法性)】

(国際法システムと国際政治システムの関係)  

  (廣瀬和子『「核兵器使用の違法性」と「核抑止の論理」』より)

     国際法システム          国際政治(核抑止)システム

             合法性又は

システム  核兵器使用  道義性を提供  核使用の回避?

 の目的   の違法性



      実体法上の          相互威嚇システム

目的達成    違法性

のための

 構造   実現するた          コントロール・システム

      めの手続法◎

実現を担 @国家(自衛権)?       核五大国による

う機関  A国連(集団安全保障)     役割分担

     B超国家的国際組織   目的実現    ?   

     (例:IAEAによる査察)の手段を提供

・実体法上の問題(※)

 「核兵器の違法性」とは、

a いかなる主体も、いかなる状況においても、核兵器による威嚇又はそ 

 の使用をしてはならないということなのか.

b aの部分否定はあるのか。

 (一定の主体、一定の状況においては許されるのか)

国際政治における「核抑止」と区別するため、「違反の防止」とすると、

a サンクション(制裁)としての「核による威嚇又は使用」が、実体法上違法

 な「核による威嚇又は使用」と分化しているのか。

b サンクションとしての「核による威嚇又は使用」の役割分担者は誰か。

c サンクション手段は核兵器でなければならないのか。

 

(問題点) 

・その破壊力や効果に著しい違いのある様々な核兵器が存在すること

 

(核に関する国際法、条約)

:全面的に禁止する条約はないが、実験や保有を制限したり、配置・使 

 用を一定地域で禁止する条約はある。

  1. 核兵器の実験を禁止する条約

:大気圏内、大気圏外空間、海中での核爆発実験を禁止

・地下核実験制限条約(TTBT1974年(米ソ)

 :TNT換算150キロトン以上の地下核実験を禁止

:同規模の平和利用実験も禁止

  1. 核兵器の保有国を制限する条約

:五核保有国に制限。19955月無期限延長。

 インド・パキスタン・イスラエルなどは加盟していない。

  1. 核兵器の使用を制限する条約

:米ソの大陸間弾道ミサイル(ICBM)と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)  

 の総数を凍結。しかし、戦略爆撃機や複数個別誘導弾頭(MIRV)は

 全く制限されていない。 

  同時に、弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)で、戦略弾道ミサイルを

  迎撃する兵器の開発と配備を制限。

:米ソで戦略兵器の運搬手段総数上限を2250にし、ICBMSLBM

 上限も設定。アメリカの批准審議が中断(アフガン侵攻などの為)し、

 失効。また、86年、アメリカは空中発射巡航ミサイル(ALCM)搭載

 のB52の配備数が上限を超え、死分化した。

:米ソの地上発射式中距離核戦力の全廃。条約の検証について、現地査

 察が認められた。

:米ソは、条約発効後、七年間で25から35%の核兵器を削減する。

2003年までに、米ロの現在保有する約3分の1にあたる戦略兵器の

 核弾頭数に削減。複数弾頭配備の大陸間核ミサイルの全廃を定めている。

  アメリカは96年に批准を完了、ロシアでは遅れている。

  1. 非核地帯条約

:領有権の凍結と、南極での軍事措置と核爆発の一切の禁止。

:地球の周りの軌道上や、月、その他の天体、宇宙空間に核兵器を置く 

 ことを禁止。

:海底に、核兵器その他の大量殺戮兵器を配備することを禁止

核保有国は、このような特定地域を対象とした核不使用条約が結ばれること自体、核使用を禁止する一般国際法がないことの証明であるとし、

非核諸国は、核使用を違法とする国際社会の法的信念の現れと反論する。

●戦時国際法(戦争法)

 戦争に関する国際法

・戦争手段の制限についての法(戦争中の法)

 :非核諸国が核兵器の違法性を主張する時言及したのが、この戦時国際

  法(戦争法)。これは、さらに「中立法規」と「交戦法規」に大別さ

  れる。

  ↓

 交戦法規は、「ハーグ法」(戦闘の手段・方法を規制)と「ジュネーブ法」

(戦争犠牲者の保護)に区別される。

 この二つは、1977年の「国際的武力紛争の犠牲者の保護に関し、1949812日のジュネーブ諸条約に追加される議定書」(第一議定書)によって統合され、現在に至っている。

1889年の第1回ハーグ平和会議で採択され、1907年の第2回ハーグ平和

会議で改正され、今日に至る。

 正式には、「陸戦の法規慣例に関する条約(ハーグ条約)」と「陸戦の法規慣例に関する規則(ハーグ陸戦規則)」

 陸戦規則で、害敵手段の制限(22条)、禁止事項(毒又は毒を施したる兵器の使用、不必要な苦痛を与ふへき兵器の使用、防守されない都市の攻撃など、23条)が規定されている。また、人道的立場から戦争法の基本原則によって、兵器の使用に一定の制限を加えなければならないとする「マンテナス条項」が前文に盛られている。

1回ジュネーブ赤十字条約(1864年)

ジュネーブ四条約(1949年)

1977年に

「国際武力紛争における犠牲者の保護に関する1949812日ジュネーブ条約に対する追加議定書」(第一議定書)と

「非国際武力紛争の犠牲者の保護に関する…追加議定書」(第2議定書)

ただし、兵器規制の問題は議定書の枠外におかれると共に、アメリカ・イギリ

スなどの核保有国は議定書を批准していない。

400グラム以下の爆発性又は燃焼性発射物の使用を禁止。

「ニッケルで覆われた鉛の弾丸で、その覆いが不完全か、又は切り込みがなされていて、人体に入って炸裂し傷口を広げる効果を持つ小銃弾」の使用を禁止.

窒息性ガス、毒ガス又はその他のガス、これらと類似の全ての液体、物質又は考案、ならびに細菌学的戦争手段の使用を禁止。

●自衛権

国連憲章は、国家に武力の行使を禁じており(2条4項)、これが解除されるのは、

(一)51条で認められた集団的・個別的自衛権の行使としての武力行使

(二)安全保障理事会の決定に基づいて行われる42条の「軍事的措置」、

(三)安全保障理事会の許可の下に行われる53条の「強制行動」の場合。

 ↓では、

 自衛行動における核兵器の使用が、国連憲章に違反しないといえるか。

 ↓

 自衛権に基づく武力行使も無制限ではなく、国際人道法が課す諸原則に合致していなければならない。

@「差別の原則」:軍事目標と非軍事物、戦闘員と一般市民を差別し、 

         非軍事物と一般市民に対する攻撃を禁止する。

A「均衡性の原則」:軍事的利益と一般市民の蒙る損害との間

B「必要性の原則」:軍事的利益に不必要な苦痛を与えることを禁じる。

C「環境保護の原則」:環境を破壊する戦闘手段及び方法を禁じる。

 

(核兵器の違法性をめぐる学説)

  1. 合法説
  2. :核兵器使用禁止を直接禁止する条約はないとして、その使用は許されるとする。

    しかし、

    既存の国際法規の解釈や類推適用からその許容性が評価される余地はある。また、明文なくとも国際法の諸原則に反する。

  3. 条件付違法説
  4. :核兵器そのものは違法ではないが、その使用が大量破壊的効果を持ち、戦闘員と一般住民の区別や、軍事目標と非軍事物の区別の原則を侵害する場合、このような状況での使用を違法と見る。

    しかし、

    戦術核兵器の統一的見解はなく、大量破壊的効果をもたらさないかは疑問、双方の核戦争にエスカレートする危険は残る。また、非人道性の高い放射性効果を伴うことは避けられない。

  5. 核兵器そのものの違法説

:核兵器の規模に関係なくその性質・効果の諸特徴から、核兵器使用が特に害敵手段に関する現行国際法規に反すると見る。

 放射線効果は、1899年と1907年のハーグ陸戦規則第23条に禁止される毒または施毒兵器や不必要な苦痛を与える兵器に相当。また、1925年ジュネーブ議定書の禁止する毒ガスと「類似の液体、材料または考案」に相当すると見られる。

 

【核兵器使用禁止をめぐる国連決議、諸国の見解】

(国連決議)

:核兵器が国連憲章の精神、文言及び目的に反し、その使用が戦争の許容の枠を越え無差別的苦痛及び人類と文明全体の破壊をもたらすとし、この兵器自体が国際法規則、人道法と矛盾するのみならずその使用は人類と文明に対する犯罪を犯すことになる.と宣言した。

 同様の決議や報告書を毎年のように採択している。

:武力による威嚇または武力行使の放棄とリンクさせつつ核兵器使用の永久禁止を宣言。

(諸国の見解)

:自衛の際の核兵器使用を留保する主張

eg.カーター大統領は1977年国連総会での演説の中で以下のように宣言した。………自衛の場合すなわち合衆国の領土や軍隊に対する核兵器または通常兵器による攻撃あるいはその同盟国に対する同様の攻撃の場合を除いて、核兵器を使用しない。

 (これは核兵器の先制使用の可能性さえ認めるもの)

61年の核禁止決議には賛成票を投じたものの、63年から79年までのこ

の種の決議には棄権し、80年以降は反対をし続けている。

80年の総会で反対した理由について、「核使用を一切の場合に禁止する

ことは、核抑止力とは両立しない概念だから、わが国を始め、地域的な防衛措置において国の安全を図っている国々にとっては、これに反対するのは自然な姿だ」と説明している。

(賀陽外務省国連局長、81314日参議院予算委員会)

 

 

(判例)………核兵器に関する唯一の判例

:広島・長崎への原爆投下を無防守都市に対する無差別爆撃であり(「差別の原則」)、不必要な苦痛を与える非人道的害敵手段禁止(「必要性の原則」)の基本原則に反するとして、国際法違反行為と断定した。

  ただし、原告の請求を棄却。

  国際法上の違法な行為によって損害を受けた個人は、一般に国際法上 

 損害賠償請求をする途はない。

  非核諸国は、この下田裁判の判決が、核兵器を禁止する慣習法を形成

 しているとし、絶対違法の根拠の一つとした。

 

【最近の動向】

 1973年、フランスの南太平洋での大気圏内核実験について、オーストラリアとニュージーランドは、実験が国際法違反であるという判決及び判決が下りるまで実験をやめさせるという仮保全措置を裁判所に要請した。フランスは、裁判所の管轄権を否定した。

  しかし、74年にフランスは大気圏内実験から地下実験への移行を表明した

 ため、裁判所は請求も目的をなくしたと判決し、仮保全措置も失効した。

諸国の非政府組織(NGO)から核兵器使用禁止の一般条約締結を要求する声が上がり、一連の総会決議でも条約案が提示されてきた。

:「健康と環境への影響に照らして、戦争または武力紛争において国家による核兵器の使用は、WHOの憲章を含む国際法上の国家の義務に違反となるか」について勧告的意見を与えるよう、国際司法裁判所に請求することを決定。

:「いかなる事情においても核兵器の威嚇または使用は国際法上許されるか」について勧告的意見を請求。

922日、提訴を却下)

19951227日フランス地下核実験(ムルロア環礁) 

(賛成158、反対3

核管理体制の再構築へ

 

【核兵器の違法性についてのICJの勧告的意見】

199678

(要旨)WHOは核兵器使用の合法性を取り扱う権限を有しておらず、本件諮問はWHOの活動の範囲外。

 3人の判事が反対(ウィーラマントリー、シャハブディーン、コロマ判事)

●総会の要請に対する勧告的意見

1 勧告的意見の要請に応じることに決定する

  (反対1:小田判事…軍縮会議及び安保理での政治交渉の問題、司法

            機関のICJは判断を回避すべき.

2 総会で提示された問題について

 A 核兵器の威嚇使用を具体的に認めるような慣習的国際法は存在し 

  ない。(全員賛成)

 B 核兵器の威嚇・使用を普遍的・包括的に禁止する慣習的国際法は存

  在しない。(反対3:ウィーラマントリー、シャハブディーン、コロマ判事)

 C 国連憲章第2条4項「威嚇・侵略の自制」に反し、第51条「自衛

  権」の必要条件を満たさないような、核兵器による武力の行使又は威

  嚇は違法である。(全員賛成)

 D 核兵器の威嚇又は使用は、武力紛争に適用される国際法に求められ

  る要件、特に国際人道法の原則に合致しなければならない(全員賛成)。

 E 核兵器による威嚇・使用は武力紛争に関する国際法、特に国際人道

  法に一般的に違反する。しかしながら、国際法の現状から見て、国家

  の存亡がかかる自衛のための極限状況では、核兵器による威嚇・使用

  が合法か違法かについて判断を下せない。(7対7)

  (賛成:ベジャウィ裁判長(アルジェリア)、ランジェバ(マダガスカル)、ヘルツェグ(ハ

      ンガリー)、史(中国)、フライシャワー(ドイツ)、ベレシュチン(ロシア)、フェレリ・

      ブラボ(イタリア)判事

  (反対:絶対違法説=ウィーラマントリー(スリランカ)、シャハブディーン(ガイアナ)、

            コロマ(シエラレオネ)判事

     条件付合法説=シュベーベル副裁判長(アメリカ)、ギョーム(フランス)判事

     その他=小田、ヒギンズ(イギリス)判事)

 F 全ての国家には、核軍縮につながるような交渉を誠意を持って行い、

  完了させる義務がある。(全員賛成)

(勧告的意見の反応)

 合法説側:

(アメリカのバーンズ国務省報道官)

 ては合法になりうる可能性を認めている」(フランスの外務省報道官) 

 違法説側

(「世界法廷プロジェクト(WCP)」の中心の一人、国際反核法律家協会(IALANA)のピーター・ワイス共同議長)

日本政府

 

【参考文献】

・高野雄一「原爆判決とその問題点」ジュリストNo.2931964.3.1

 ‐93年)』(1996年、国際書院)

NHK広島核平和プロジェクト『核兵器裁判』(1997年、NHK出版)

 国際法外交雑誌第9712号(199846月)


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