ヨーロッパ人権条約

平成10年10月5日 水野恒夫

【概説】

 正式には、「人権および基本的自由保護のための条約」

 1950114日ローマで調印され、195393日発行した。

(目的)世界人権宣言にうたわれた市民的政治的権利、特に自由権を集団的に保障

(加盟国)ヨーロッパ理事会加盟21カ国すべて

     199761日現在の締約国:35カ国

(内容)前文68か条+追加議定書(第11議定書まで)

 

【保障する人権】

 いわゆる自由権。

 条約はまず保障する人権、次にその合法的制限の場合を列挙。

(条約の第1節)

 1 生命に対する権利(2条)

 2 拷問・非人道的待遇または刑罰の禁止(3条)

    …外国人に関し空白状態→第七議定書(追放について)

                間接的保護

 3 奴隷・苦役の禁止、強制労働の禁止(4条)

    ・法の支配

 4 身体の自由と安全(5条)、拘禁理由の告知、裁判を受け保釈を受ける権利、人身保護手続請求権、刑事補償

 5 妥当な期間内に裁判所の構成公開の審理を受ける権利(6条)、無罪の推定、刑事被告人の諸権利(弁護人先任権など)

 6 法律に基づかない処罰の禁止、刑法の不遡及(7条)

   ・多元主義と寛容

 7 私生活の保護(8条)…電話盗聴(Molne 判決、1987.3.26

 8 思想・良心・宗教の自由(9条)

 9 表現の自由(10条)…訂正権、反論権を保護していない。

 10 集会・結社の自由(11条)

 11 婚姻し家庭を設ける権利(12条)

   …性転換者の婚姻の自由(人権裁判所は婚姻の権利を行使できないと解釈した。)

 12 公的救済の権利(13条)

 13 保障されている権利と自由の享有に関する無差別待遇(14条)

  (6、7議定書)

  第1議定書(1952年、1954年発効)

  :財産権、教育権、自由選挙の保障

  第4議定書(1963年、1967年発効)

  :債務不履行の無能力を理由とする拘禁の禁止、移動と住居選択の自由、出国の自由、時刻から追放されない権利、自国への入国の権利、外国人の集団的追放の禁止

  第6議定書(1983年、1985年発効)

  :死刑廃止を規定

  第7議定書(1984年、1988年発効)

  :外国人の追放に関する手続保障、刑事事項における上訴の権利、誤った有罪判決に対する刑事補償、一事不再理、配偶者の平等を規定。

 

 (合法的制限)…条約上の制限規定

 1 締約国はすでに国内で施行中の法令については留保しうる。

 2 非常事態時には、締約国は一時的部分的に人権規定の効力を停止しうる。

 3 何人も条約が保障する権利と自由の破壊を目的とするための活動や行為をするために、条約中の権利・自由を援用できない。

 

他に、第2議定書(1963年、1970年発効)

  :勧告的意見の要請について規定

   第10議定書(1992年)

  :3分の2用件(閣僚委員会による条約違反の決定:32条)の削除

   第11議定書(1994年)

  :各機関の過重負担を理由とする手続の長期化の改善

   ・三つの決定機関を、人権裁判所で代替し、決定過程から閣僚委員会を完全に排除するもの   

   ・個人申立や人権裁判所の強制管轄権についての選択条項を削除する。

 

【実施措置】

 条約中で、締約国が行った約束の遵守を確保するため、ヨーロッパ人権委員会、ヨーロッパ人権裁判所が設けられ、さらに、ヨーロッパ理事会閣僚委員会は、条約上の機関としても機能する。

  1. ヨーロッパ人権委員会

     :委員会による不許容、つまり、申立却下の決定は、訴訟判決に類似し既判力を持つ。

      A実質審査(調停)

     :調停に成功すると、報告書を作成・公表する。

      不成功の時は、事実に関する報告書を作成し、条約違反かの意見を述べる。(決定と異なり法的拘束力を持たないが、閣僚委員会で最終的で拘束力ある決定を行うとき、この意見をそのまま採用している慣行から、事実上の拘束力を持つ。)

 

 2 ヨーロッパ人権裁判所

 :管轄は、締約国または委員会が付託する条約の解釈・適用に関するすべての事件に及ぶ。ただし、調停前置主義。

 :個人の出訴権を、第9議定書で拡大

 :勧告的意見を与える権限を、第2議定書により持つ。

 :事件が付託されると、7名の裁判官からなる裁判部が作られ、判決は終局的に当事国を拘束する.判決の執行は、閣僚委員会が監視する。

 

 3 ヨーロッパ理事会閣僚委員会

 ・権限:「条約違反の認定」を行う権限が与えられている(32条)

     :被告である国家は、裁判官であると同時に当事者でもある。

     :個人は手続から排除されている(主に、書面審査で非公開)

【ヨーロッパ人権条約の特徴】

 ・実効的な人権保障という点で、他の人権条約のモデルとなるほど優れ   

 た人権条約……先駆性

1 時期的な先駆性

  :第二次世界大戦直後、1950年に採択された。

   (国連の国際人権規約は、1966年に署名)

   世界人権宣言(1947年採択)の精神をいち早くヨーロッパ地域で実現しようとしたもの.

 

2 実施監督のための、固有の、実効性を持った司法機関

  :選択条項ではあるが、個人に、人権委員会に直接申立を行う権利を付与して、最終的に人権裁判所の判決に到達するメカニズムを備えている。

 

3 保護している人権内容の先駆性

  :条約自身というより、判例による解釈。

   反面、多様性を認める領域を残すことで、国家の主権とのバランスを保っている.

 

【ヨーロッパ人権条約の関係する判例】

1 報道の自由に対する政府規制とヨーロッパ人権条約援用の可否

  Regina v. Secretary of State for the Home Department, ex parte Brind :[19911 A.C.696. 19912 W.L.R.588.19911 All.E.R.720 (H.L.)

(事件の概要)

 19881019日、イギリスの内務大臣が、1981年放送法に基づき、IBA(独立放送協会)に対し、又、放送免許協定に基づき、BBC(英国放送協会)に対し、IRA(アイルランド共和派義勇軍)及びUDA(アスター防衛組織)の代表者が政治宣伝を表明しようとしている場面を含む番組の放送中止を求める指令を出した。

 これに対し、ジャーナリストたちが、大臣の指令は権限踰越であること、ヨーロッパ人権条約10条を侵害することなどを主張し、司法審査の申立を行った。

 これに対し、高等法院女王座部合議法廷(部裁判所)、控訴院は、原告の申立を棄却したので、貴族院に上告した.

 

(判旨の概要)

 実質的争点の第一は、大臣が問題の放送に介入するに際して、ヨーロッパ人権条約10条の制約に服さなければならないのか。

 この点について、各裁判官は、国会制定法の解釈に関し、文言上曖昧な場合にこの条約を参照し、連合王国の国会がこの条約の趣旨に反する規定を定めるはずはないという前提で解釈することは許されるが、国会制定法の規定が明確であるときに条約の規定に沿った解釈を優先させることは、国家が同条約を国内法とする手続をとっていないのに裁判所が同条約を国内法の一部として扱うのと同じことになり、国家の意思を無視することになる。等として、人権条約の直接適用はないとした。

 結論は、大臣の指令には権限踰越はないとした。

 

【参考文献】

 


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