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T73 『取材フィルムの提出命令と取材の自由』 ―博多駅事件

最高裁昭和44年11月26日大法廷決定
(昭和44年(し)第68号 取材フィルム提出命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)
(刑集23巻11号1490頁、判時574号11頁)


平成11年11月24日 I 

【事実の概要】

 いわゆる博多駅事件に関する付審判請求の審理を担当した福岡地裁第三刑事部は、44年5月19日NHK福岡放送局ほか3社に対して当時の状況を撮影したニュース・フィルムの存否を照会したうえ、6月6日までの提出を要請したが、4社はこれを拒否したので、8月28日付で刑訴法99条2項により当該フィルム全部についての提出命令を発した。
 この命令に対して放送4社は、報道の自由の侵害と提出の必要性が希薄であることなどを理由として一般抗告を行ったが、福岡高裁が「報道の自由といえども公共の福祉により制限されること、裁判でのフィルム使用は『態様を異にした公開』とも考えられ報道機関の不利益は少ないこと、またフィルム提出は審理にとって必要であること」などの理由で抗告棄却の決定をしたので、本件特別抗告となった。


【判旨】  棄却

 「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の『知る権利』に奉仕するものである。したがって、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることは言うまでもない。た、このような報道機関の報道が正しい内容を持つためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するものと言わなければならない。」

 「しかし、取材の自由といっても、もとより何らの制約を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現と言うような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることのあることも否定することができない。」

 「本件の場合、「現場を中立的な立場から撮影した報道機関の本件フィルムが証拠上きわめて重要な価値を有し、被疑者らの罪責の有無を判定するうえに、ほとんど必須のものと認められる状況にある。他方、本件フィルムは、既に放映されたものを含む放映のために準備されたものであり、それが証拠として使用されることによって報道機関が蒙る不利益は、報道の自由そのものではなく、将来の報道の自由が妨げられるおそれがあるというにとどまるものと解されるのであって、・・・この程度の不利益は、報道機関の立場を十分尊重すべきものとの見地に立っても、なお受忍されなければならない程度のものというべきである。」


【論点】
 憲法21条と取材の自由


<報道の自由・取材の自由>

 報道は事実を知らせるものであり、特定の思想を表明するものではないが、報道の自由も表現の自由の保障に含まれる。これは、報道のために報道内容の編集という知的な作業が行われ送り手の意見が表明される点から言っても、さらに、報道機関の報道が国民の知る権利に奉仕するものとして重要な意義をもつ点から言っても異論はないとされている。

 報道の自由に、取材の自由および取材原秘匿の自由が含まれるかについては、意見が分かれている。

 本決定は、「報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値する」として、取材の自由が憲法上の保障に値することを明言するととも、取材の自由も、「憲法上の要請」があるときは、「ある程度の制約」を蒙ることはやむをえないが、その場合でも、制約の「必要性」と取材の自由が妨げられる程度など諸般の事情とを比較衡量して、それによって受ける報道機関の不利益が必要な限度を超えないように配慮されなければならないとして、いわゆる比較衡量論を展開している。


【私見】

 報道の自由が、表現の自由を保障した憲法21条に保障されることは明らかにされている。これに対して、報道のための取材の自由が憲法上の保障に値するかについては肯定説を支持するが、公正な裁判の実現に影響を及ぼす諸事情と、報道の自由ないし取材の自由に影響を及ぼす諸事情の比較衡量によって解決すべきであると考える。そのうえで、裁判上きわめて重要な証拠とされる本件フィルムの提出命令と、本件フィルムが証拠として使用されることによる報道機関側の不利益を比較衡量したうえでの本件決定は妥当であると思われる。


2004.7.17 upload / 7.23 update

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