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 『前科照会とプライバシー』

最高裁昭和56年4月14日第三小法廷判決
(昭和52年(オ)第323号 損害賠償等請求事件)
(民集35巻6号620頁)


1999年9月22日(水) M 

<事実の概要>

 原告Xは、訴外A自動車学校の技術指導員であったが、地位保全仮処分命令の申請により従業員たる地位が仮に定められていた。これに関し、Aの弁護士Bは、弁護士法23条の2第1項に基づいて、Xの「前科および犯罪歴について」京都市のC区役所に照会したところ、C区役所より前科歴がある旨の回答を得たため、AはXに対して、前科を秘匿した経歴詐称を理由に予備的解雇を通告した。
 そこで、その解雇の通告の効力をめぐり、裁判所及び中労委で争われることになったが、他方、Xは、京都市を相手に、自己の名誉、信用、プライバシーが侵害されたこと、C区長が前科照会に回答したことは過失があったことを主張して、損害賠償の請求をおこなった。


第一審(京都地判昭和50年9月25日 判時819号69頁)

 「弁護士法23条の2は弁護士がその職責を遂行するため弁護士会を通じて公務所又は公私の団体に必要事項の報告を求めることができる」「この照会と回答のため個人のプライバシーが侵害されるのはやむをえない」「(従って)照会を受けた公務所は・・・権威ある弁護士からの法律に基づく照会である以上、それが不法な目的に供されるということが判明できるなど他に根拠がある場合はともかく、然らざるかぎりそれに応じるのが自然であり・・・公務所はこの照会に対し正当な事由がない限りこれに応ずる法律上の義務がある」としたうえ、本件回答により原告が不利益を被ったとしても区長は正当な業務行為をしたまでであって違法性を欠いているから損害賠償責任はないとして、請求を棄却した。


第二審(大阪高判昭和51年12月21日 判時839号56頁)

 「弁護士法23の2は弁護士が受任事件の処理につきその使命とされる基本的人権の擁護と社会正義を実現するため必要な資料を収集するにつき照会し報告を求めることを認めたもので弁護士法による照会をうえた公務所は原則として報告義務を負うが、前科や犯罪歴については不当に他人に知られない権利があり、法令に根拠のある場合、公共の福祉による要請が本人のプライバシーの権利に優先する場合にかぎって回答が許される」として、本件照会を違法として請求を認容した。


上告審 上告棄却

 「弁護士法23の2に基づき前科および犯罪経歴の照会をうけたいわゆる政令指定都市の区長が、照会文書中に照会を必要とする事由としては「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」との記載があったにすぎないのに、漫然と右照会に応じて前科および犯罪経歴のすべてを報告することは、前科および犯罪経歴については、従来通達により一般の身元照会には応じない取扱であり、弁護士法23の2に基づく照会にも回答できないとの趣旨の自治省行政課長回答があったなど、原判示の事実関係のもとにおいては、過失による違法な公権力の行使にあたる」


補足意見(伊藤正己裁判官)

 「本件で問題とされた前科等は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないもののひとつであり、それに関する情報への接近をきわめて困難なものとして、その秘密の保護が図られているのもそのためである。もとより前科等も完全に秘匿されるものではなく、それを公開することの必要性も生じるが、公開が許されるためには、裁判のために公開される場合であっても、その公開が公正な裁判の実現のために必須のものであり、他に代わるべき立証手段がないときなどのように、プライバシーに優越する利益が存在するのでなければならず、その場合でも必要最小限の範囲に限って公開しうるにとどまる。このように考えると、人の前科などの情報を保管する機関には、その秘密の保持につきとくに厳格な注意義務が課せられていると解すべきである」


反対意見(環昌一裁判官)

 「このような取扱をしたことは、他に特段の事情の存することが認められない限り、弁護士法23の2の規定に関する一個の解釈として十分成り立ちうる見解に立脚したものとして被上告人の名誉等の保護に対する配慮に特に欠けるところがあったというべきものではないから、同区長に対し少なくとも過失の責めを問うことは酷にすぎ相当でない」


<議論のポイント>

 情報の提供と個人のプライバシーが衝突する場合の調和


<私見>

 演習判例では個人の名誉に重点を置いたかのようだが、これを一般論としうるかは疑問である。なぜなら、情報提供者は情報の用途や重大性につき確知することが難しい。特に情報提供の要請が多大になればなるほど困難になる。そのため、わずかな過失でも提供者に不利となるなら、情報提供の萎縮につながるおそれがある。このことは、情報公開の重要性と相反する結果になると思われるからである。


2004.7.18 upload / 7.21 update

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