T87 『教科書検定』@―第二次家永教科書事件一審
東京地裁昭和45年7月17日判決(杉本判決)
(昭和42年(行ウ)第85号検定処分取消訴訟事件)
(行集21巻7号別冊1頁、判時604号29頁)
平成10年12月16日 水野 恒夫
【事実の概要】
原告X(家永三郎(当時東京教育大学教授)が執筆した高校用教科書『新日本史』は、昭和28年以降、検定済教科書として使用されてきた。
原告は、昭和38年度検定において条件付合格となった教科書に部分改訂を加え、昭和41年、三省堂を申請者として、34箇所の改訂を加える改定検定の申請をしたが、文部大臣は、昭和42年にうち6箇所について不合格処分の決定をした。そこで、原告は、同年、文部大臣を被告として不合格処分の取消訴訟を提起した(教科書検定第二次訴訟)。
【論点】(原告の主張)
・ 国民が教育を受ける権利を保障した憲法26条は国家(文部省)の教育権を認めているか(教育権の所在)
・ 教科書検定そのものが憲法(21・23・26条など)及び教育基本法10条に違反するか(制度違憲)。
・・・教科書検定が「検閲」にあたるか。
・ 本件における処分は、憲法及び教育基本法に違反するか(適用違憲)。
・ 仮に反しないとしても、本件検定は、文部大臣の裁量権の範囲を越え、又は濫用したものとして違法でないか(裁量権)。
【事件の経過と他の家永訴訟】
| 【第一次】 第一審(S49) |
(昭和37、38年検定に関する国家賠償請求訴訟)
教育権の所在につき、「国家の教育権」説の立場から、検定制度の合憲性を認めたが、検定意見の一部に裁量権濫用があるとして、請求を10万円認容した。(高津判決) |
| 控訴審(S61) | 本件検定を制度上も適用上も合憲とした上で、裁量権濫用の違法もないとして原判決取消、請求棄却。(鈴木判決) |
| 上告審(H5) | 控訴審を全面的に維持し、上告棄却。Xの敗訴確定。
従来の「検閲」概念を維持しつつ、教科書検定は発行済みの一般図書をそのまま検定申請してもよく、不合格になっても一般図書としての発行は禁止されないのだから「検閲」にあたらないとした。 |
| 【第二次】 第一審(S45) | 本件(昭和42年の検定不合格処分取消訴訟(行政訴訟))。
教育権の所在につき、「国民の教育権」を表明すると共に、教科書検定自体は違憲ではないが、当該検定は思想内容に及ぶものであり、「検閲」にあたるとして違憲・違法とした。(杉山判決) |
| 控訴審(S50) | 控訴棄却(畔上判決)。(検定制度の合憲性は判断回避) |
| 上告審(S57) | 破棄差戻し |
| 差戻し審(H1.6) | S45の高等学校学習指導要領の改正により訴えの利益が失われたとして、訴え却下。確定。 |
| 【第三次】 第一審(H1.10) | (昭和55、58年検定に関する損害賠償請求)
教育権の所在について折衷説を採った上で、検定制度の合憲性を認めたが、「草莽隊」に関する修正意見について裁量権の逸脱があったとして慰謝料10万円を認容した。(加藤判決) |
| 控訴審(H5) | さらに「南京事件」「日本軍の残虐行為(南京)」に関する修正意見について違法性を認めた。(川上判決) |
| 上告審(H9) | 「731部隊」関係の全文削除を求めた意見について新に違法と認定し、賠償額を二審の30万円から40万円に増額する判決を言い渡した。 |
【教科書検定が「検閲」にあたるか】
・ 検定は、その運用上必然的に思想の内容の審査にわたり、かつ審査の結果によっては教科書としての出版を不可能にするため違憲であるとする見解
・ 検定は、教科書が検定基準に合致しているということを公の権威をもって確認する確認行為であると共に、教科書として使用することを承認するいわゆる特許行為であること、かつ、仮に検定で不合格となっても、一般図書として出版することは可能であることなどから、違憲とはいえないとする見解(通説、第一次訴訟、第三次訴訟)
【私見】
教科書検定の問題は、『教育権の所在』(国家or国民or折衷説)と密接な関係があるが、『政府言論と「囚われの聴衆」によるその受領』という図式で捉えようとするアプローチ(藤井樹也、蟻川恒正)も必要と感じた。