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U137 『所得税の課税最低限と生存権』―総評サラリーマン税金訴訟

最高裁平成元年二月七日小法廷判決
(昭和五八年(オ)第三〇〇号 所得税返還請求事件)
(判時一三一二号六九頁、判タ六九八号一二八頁)


平成10年7月1日 Y 

【事実の概要】

 Xら(原告・控訴人・上告人)は共稼ぎ夫婦で、その間に幼児一人を有していたところ、X1は、昭和四六年一月から同年末までの賃金として合計一四八万一九四五円を、またX2は、同年一月から同年末までの賃金として合計一二三万四六七一円をそれぞれ得た。そして、昭和四六年分の所得税として、X1は八万〇一〇〇円を、X2は七万二〇〇〇円をそれぞれ源泉徴収により国に収納された。
 そこで、Xらは、昭和四六年分のXらに対する所得課税は憲法二五条に違反する、源泉徴収制度は憲法一四条に違反するなどを理由に、源泉徴収による右各税額の全額につき、国を被告として、その還付を求めて本訴を提起した。


【下級審】
 第一審 請求棄却
 第二審 請求棄却


【上告理由】

@生活費を必要経費と認めたことの違憲性
A給与所得者の最低生活費に対する課税の違憲性
B給与所得に対する源泉徴収制度の違憲性
 を主張して上告


【最高裁】 上告棄却

 @について「・・・所得税法二八条等・・・が必要経費の控除について事業所得者等と給与所得者との間に設けた区別は、合理的なものであり、憲法一四条一項の規定に違反するものでないということは、当裁判所昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日大法廷判決(民集三九巻二号二四七頁)に照らして明らかである。」

 Aについて「・・・憲法二五条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明かに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事項であるといわなければならない(最高裁昭和五一年(行ツ)第三〇号同五七年七月七日大法廷判決・民集三六巻七号一二三五頁)。そうだとすると、上告人らは前記所得中の給与所得に係る課税関係規定が著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないゆえんを具体的に主張しなければならないというべきである。しかるに、本件の場合、・・・昭和四六年の課税最低限が・・・総評理論生計費を主張するにすぎないが、右総評理論生計費は日本労働組合総評議会にとって望ましい生活水準ないし将来の達成目標にほかならず、これをもって「健康で文化的な最低限度の生活」を維持するための生計費の基準とすることができない・・・」

 Bについて「源泉徴収制度を定める国税通則法及び前記所得税法の規定が憲法一四条一項に違反するものでないことは、当裁判所昭和三一年(あ)第一〇七一号同三七年二月二八日大法廷判決(刑集一六巻二号二一二頁)の趣旨に照らして明らかである。」


【判例】

(1)大島訴訟 最高裁昭和六〇年三月二七日大法廷判決(民集三九巻二号二四七頁)

 事業所得者が実際に要した金額について必要経費の控除を認めているにもかかわらず給与所得の金額の計算について、必要経費の控除を認めていないことは給与所得者を差別的に扱っているから、憲法一四条一項に違反し無効であると提訴した事案。

 「・・・国民各自には具体的に多くの事実上の差異が存するのであって、これらの差異を無視して均一の取扱いをすることは、かえって国民の間に不均衡をもたらす・・・給与所得者は、・・・職場における勤務上の必要な施設、器具、備品等にかかる費用のたぐいは使用者において負担するのが通例・・・給与所得者はその数が膨大であるため、各自の申告に基づき必要経費の額を個別的に認定して実額控除を行うこと、・・・は、技術的及び量的に相当な困難を招来し、ひいて税務執行上少なからず混乱を生ずることが懸念される。・・・必要経費の控除について事業所得者等と給与所得者との間に設けた前記区別は、合理的なものであり、憲法一四条一項の規定に違反するものではないというべきである。」


(2)堀木訴訟 最高裁昭和五七年七月七日大法廷判決(民集三六巻七号一二三五頁)

 全盲の身障者が障害福祉年金と児童扶養手当との併給禁止規定の不合理が憲法二五条二項に違反するとした事案。

 「・・・憲法二五条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのには適しない事柄であるといわなければならない。・・・社会保障給付の全般的公平を図るための公的年金相互間における併給調整を行うかどうかは、さきに述べたところにより、立法府の裁量の範囲に属する事項と見るべきである。」とした。


(3)所得税法違反被告事件 最高裁昭和三七年二月二八日大法廷判決(形集一六巻二号二一二頁)

 代表取締役であるXが従業員の給与所得について源泉徴収により所得税を徴収せず、納付しなかったため所得税法六九条の三に問われた事件で、Xが上告理由において源泉徴収は違憲であると、求めた事案。

 「・・・源泉徴収制度は、国は税収を確保し、徴税手続きを簡便にしてその費用を節約し得るのみならず、担税者の側においても申告、納付等に関する煩雑な事務から免れることができる。・・・されば、源泉徴収制度は給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり、合理的であって、公共の福祉の要求にこたえるものといわなければならない。」


【私見】

 本判決における趣旨に同調し得ない。なぜなら、本判決は特に最低生活費をどのくらいと見積もるべきかについて明示的な判示をしていないことに対し、裁判所は「健康で文化的な最低限度の生活」に要する費用を探究し、本件課税最低限の定めがそれを下回っているか否かを判断すべきで、現実の課税最低限がそれを著しく下回った場合には違憲判断をなすか、そうでなければ合憲判断を下すべきだと考える。


2004.7.17 upload / 8.5 update

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