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U207 夫婦所得課税(課税単位)――二分二乗方式

最高裁昭和36年9月6日大法廷判決
(昭和34年(オ)第1193号 所得税審査決定取消事件)
(民集15巻8号2047頁、訟月7巻11号113頁)


平成10年6月17日 T 

【判決要旨】

 1 民法第762条第1項は憲法第24条に違反しない。
 2 所得税法が夫婦の所得を合算折半して計算することにしていないからといって憲法第24条に違反しない。


【事案の概要】

 上告人X(原告・控訴人)は、昭和32年度所得金額の確定申告に際し、自分の名義で取得した同年の総所得のうち給与所得及び事業所得については、妻Yが家庭にあってなした家事労働など妻の協力により得られた所得であるから、夫婦の各自に等分に帰属すべきであると考えて、給与所得と事業所得とをX・Yで折半して、半額ずつについて確定申告した。

 これに対して、所轄税務署長は、X・Yの所得金額をXの所得と認定して更正した。Xは直ちに審査請求を行なったが、被告上告人国税局長(被控訴人・被上告人)もXの審査請求を却下したので、Xは本訴を提起して審査決定の取消しを求めたのである。

 Xの主張によれば、夫名義で取得された財産の全額が夫のみに帰属するとの認定は、現行所得税法の所得の解釈としては形式上正当であるとしても、妻がその財産取得のため家庭で尽くした内助の功を何ら評価せず、全て夫の財産として独占させることは、妻の尊厳を害し、両性の本質的平等を侵すものであるから、所得税法は憲法24条、30条に違反するというものであった。


 夫と妻各自所轄税務署長への申告所得税務署更正決定(単位:円)
 夫婦夫婦
事業
給与
配当
459,200
165,600
119,800
229,600
82,800
119,800
229,600
82,800
0
459,200
165,600
119,800
459,200
165,600
119,800
   0
0
0
744,600432,200312,400744,600744,6000


【第1審】(大阪高等裁判所昭和34年1月17日判決、行集10巻1号53頁・訟月5巻9号167頁)

 夫婦の所得の認定が、民法762条1項所定のいわゆる夫婦財産制に依拠するものであるとし、この規定が、夫婦間の実質的不平等を是正する他の規定の存在および円満な婚姻生活の維持の目的にてらして、違憲ではないという理由から、Xの請求を棄却した。


【第2審】(大阪高等裁判所昭和34年9月3日判決、行集10巻9号1707頁・訟月5巻9号170頁)

 憲法24条が民法の別産制を禁じていないという理由で、Xの主張は容れられなかった。


【上告理由】

 上告理由は5点からなり、要するに、同居する夫婦の夫の収入は妻の内助の功の結果であり、夫名義の収入も、半額は妻の収入に帰すべきものであるから、所得税についても、税額計算の際には、夫婦が半額ずつ収入があったものとして計算すべきであり、そのように課税しないことは憲法24条の趣旨に反する、というのである。


【判決主文】 本件上告を棄却する。

【判決理由】

(要旨第1)
 「先ず憲法24条の法意を考えてみるに、同条は、・・・民主主義の基本原理である個人の尊厳と両性の本質的平等であるから、夫と妻の間に、夫たり妻たるの故をもって権利の享有に不平等な扱いをすることを禁じたものであって、結局、継続的な夫婦関係を全体として観察した上で、婚姻関係における夫と妻とが実質上同等の権利を享有することを期待した趣旨の規定と解すべく、個々具体の法律関係において、常に必ず同一の権利を有するべきものであるというまでの要請を包含するものではないと解するを相当とする。
 次に、民法762条1項の規定をみると、夫婦の一方が婚姻中の自己の名で得た財産はその特有財産とすると定められ、この規定は夫と妻の双方に平等に適用されるものであるばかりでなく、所論のいうように夫婦は一心同体であり一の協力体であって、配偶者の一方が財産取得に対しては他方が常に協力寄与するものであるとしても、民法には、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦相互の協力、寄与に対しては、これらの権利を行使することにより、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされているということができる。しからば、民法762条1項の規定は、前記のような憲法24条の法意に照らし、憲法の右条項に違反するものということができない。」

(要旨第2)
 「それ故、本件に適用された所得税法が、生計を一にする夫婦の所得の計算について、民法762条1項のいわゆる別産主義に依拠しているものであるとしても、同条項が憲法24条に違反するものといえないことは、前記のとおりであるから、所得税法もまた違憲ということはできない。」


【解説】

 本判決は、@憲法24条の趣旨は夫婦の場合については、その実質的平等が夫婦関係全体の中で実現されていれば十分であると解し、A民法762条1項の趣旨をいわゆる別産制を採用するものと解し、B民法の右条項は、財産分与請求権など他の民法上の諸制度とあわせて、全体として観察すると憲法24条に違反しないとし、C所得税法が民法の右条項に依拠しているとしても同条項が合憲である以上、課税所得の捕捉・測定に当たり「稼得者個人単位課税方式」を採用している所得税法も違憲ということはできない、とするものである。


【世帯所得課税に関する西ドイツ連邦憲法裁判所の違憲決定】

 所得課税において、いかなる生活単位を課税単位として選び、そしてそれに対し、いかなる課税を行なうべきであるかという問題は、税制論の側面のみならず憲法論の側面からも問題となる。
 西ドイツにおいては、1957年1月17日、連邦憲法裁判所が1951年所得税法26条の夫婦合算課税規定を基本法6条1項(婚姻の保護)に違反するという決定(BVerfGE Bd. 6, S. 55)をなし、これを受けて1958年法は、夫婦課税についアメリカ型の所得分割法(2分2乗方式)を導入した。
 (詳しくは、別冊ジュリスト『ドイツ法判例百選』78頁 25夫婦合算課税の違憲性・『税法学』225号17頁)


【私見】

 民法の夫婦財産制に関しては、その妥当性について、かなりの議論があると思うが、現在の規定をもって、憲法24条に違反すると断定することは困難であり、その意味において、最高裁の結論を支持したい。
 2分2乗方式にしても、公平負担の観点から激しい批判がなされている。仮に他の方式に移行させることが望ましいとしても、わが国の方式がそれなりに優れた制度であることも否めない。課税単位の問題は、例えば、独身者、共稼ぎ夫婦、片稼ぎ夫婦の公平を考える際にも、人の一生を通じた租税負担といった視点からの慎重な検討が必要であると思う。


(補足資料)
■課税単位


【例1】 A……所得300万円、B……所得200万円

(1)結婚前  A……税額=300万円×10%=30万円
         B……税額=200万円×10%=20万円

(2)結婚後  
   @個人単位主義:結婚前と同じ

   A単純合算税:税額=500万円×税率
                 =330万円×10%+170万円×20%
                 =33万円+34万円
                 =67万円

   B2分2乗方式:税額=500万円+1/2×税率×2
                 =500万円×1/2×10%×2
                 =50万円

【例2】 A……所得500万円、B……所得0円

(1)結婚前  A……税額=500万円×税率
                 =330万円×10%+170万円×20%
                 =33万円+34万円
                 =67万円
         B……税額=0円

(2)結婚後  
   @個人単位主義:結婚前と同じ

   A単純合算税:結婚前と同じ

   B2分2乗方式:税額=500万円+1/2×税率×2
                 =500万円×1/2×10%×2
                 =50万円

2004.7.17 upload / 8.10 upload

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