U146 『国家公務員の労働基本権』/全農林警職法事件
最高裁昭和48年4月25日大法廷判決
(昭和43年(あ)第2780号 国家公務員法違反被告事件)
(刑27巻4号547頁/判時699号22頁)
平成10年7月15日 S
《事実の概要》
昭和33年以降、警職法改正案に反対する運動が展開されていた。その運動に全農林労組も参加することになり、被告人ら同労組幹部が同年11月5日に職場大会の実施について、正午出勤の行動に入れという指令を発した。これら被告人の行為が国家公務員法98条5項(改正前)に違反するとして、110条1項17号によって起訴された。
《判決の流れ》
[第一審]東京地判昭和38年4月19日刑集27巻4号1047頁
国家公務員法の右条項が憲法28条、18条、21条、31条に違反しないと判断しつつも、争議行為の実行行為を不可罰としながらこれと不可分な随伴的行為を可罰的とする国家公務員法110条1項17号を刑罰体系上異例であるとし、したがって、被告人らの行為が強度の違法性を帯びないかぎり、同条項に該当しないとして無罪を言い渡した。
[第二審]東京高判昭和40年9月30日高刑集21巻5号365頁
「あおり行為等」を一審判決のように限定せず、かつ本件争議行為を「政治スト」と解することによって、被告人らを有罪とした。
[最高裁]
「公務員は、公共の利益のために勤務するものであり、公務の円滑な運営のためには、その担当する職務内容の別なく、それぞれの職場においてその職責を果たすことが必要不可欠であって、公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性および職場の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停滞をもたらし、その停滞は
勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはその虞がある」。
よって、公務員の「労働基本権に対し必要やむを得ない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由がある」。
公務員の勤務条件は国会の法定した法律、予算によって定められるから公務員が政府に対して争議行為を行うことは「憲法の基本原理である議会制民主主義に背馳し、国会の議決権を侵すすらなしとしない」。
また、私企業においては企業そのものの存立を危殆ならしめるから労働者の要求は制約を受けるが、公務員の場合にはそのような制約はない。
さらに、公務員の「労働基本権を制限するにあたっては、これに代わる相応の措置が講じられなければならない」が、
現行法による諸制度は十分といえる。
よって、公務員の争議行為を一切禁止した国家公務員法98条5項(改正前)、及び、同法110条1項17号は合憲である。
《争点》
・公務員の労働基本権はいかなる根拠によりどの程度制約されるか。
《類似の判例》
・全逓東京中郵事件(最高裁昭和41年10月26日大法廷判決)
・都教組事件(最高裁昭和44年4月2日大法廷判決)
《私見》
まず、そもそも公務員に労働基本権が保障されるのかを考えなくてはならないが、この点、公務員も労務を提供して賃金を得るものであるから「勤労者」にあたる(28条)と解すべきである。
もっとも、@憲法は公務員関係の存在と自律性を認めており(15条、73条4号)、また、A公務員には法律に忠実に従って職務を遂行しなければならない義務があり(65条)、かかる職務の中立性を図る必要性は大きいことから、一定の制約がある。
この制約に関して争われたのが本判例である。
判例では、@職務の公共性、地位の特殊性、A勤務条件法定主義(議会制民主主義)、B団体交渉における市場の抑制欠如論、C代償措置論から、公務員の争議行為を一律に禁止し、違反した場合に刑罰を科す法律を合憲とする。
しかし、@職務の公共性は講義の公務員一般の職務遂行の指導理念にすぎない。また、A議会による決定のプロセスにおける利害関係人の介入を排除するのは妥当でない。そして、B世論による抑止力ははたらき、C代償措置があれば制限し得るとするのは妥当でない。
確かに、公務員の労働基本権は、職務の公共性により、一定の制限を受けざるを得ない。
しかし、労働基本権は、勤労者を使用者と対等の立場に立たせ、その生活基盤を強固にするために不可欠の権利であることからすれば、その制約の合憲性は厳格な合理性の基準によって判断すべきである。
よって、公務員の争議行為を一律に禁止し、これに違反した場合に刑罰を科す法律は違憲である。