U134 『生存権の性格』―朝日訴訟
最高裁昭和42年5月24日大法廷判決
(民集21巻5号1043頁、判時81号9頁)
平成10年5月6日 水野 恒夫
<事実の概要>
朝日茂(原告・上告人)は、生活保護法に基づく医療扶助及び生活扶助を受けていたが、実兄が見つかったので、津山市社会福祉事務所長は実兄からの仕送りを受けるように命じ、次いで仕送り金月額1500円から日用品費として月額600円を控除した残額月額900円を医療費の一部自己負担額として負担させた。
右保護変更決定に対し、朝日茂は知事に対し不服申立てを行ったが却下されたので、さらに厚生大臣(被告)に不服申立てをしたところ、申立てを却下する裁決が下されたため、生活保護処分に関する裁決取消訴訟を提起した。
<下級審>
第一審判決は、本件保護変更処分は違法として裁決を取り消した。
第二審判決は、本件保護基準は「すこぶる低額」ではあるが違法とまでは断定できないとして、原判決を取り消した(原告敗訴)。
<上告理由>
(生活保護法8条2項・3条の解釈の誤り、生活保護基準の適否)
<最高裁>
「生活保護法の規定の基づき要保護者または被保護者が国から生活保護を受けるのは、・・・法的権利であって、保護受給権とも称すべきものと解すべきである。しかし、この権利は、被保護者自身の最低限度の生活を維持するために当該個人に与えられた一身専属の権利であって、他にこれを譲渡し得ないし(59条参照)、相続の対象ともなり得ないというべきである。」「さすれば、本件訴訟は、上告人の死亡と同時に終了し、・・・承継しうる余地はないもの」(訴訟終了)
「なお、念のため、本件生活扶助基準の適否に関する当裁判所の意見を付加する。」
「一 憲法二五条一項は、・・・全ての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を付与したものではない。」
「何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、一応、厚生大臣の合目的的な裁量に委ねられており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあっても、直ちに違法の問題を生ずることはない・・・。」
「二 ・・・本件生活扶助基準が入院入所患者の最低限度の日用品費を支弁するにたりるとした厚生大臣の認定判断は、与えられた裁量権の限度をこえまたは裁量権を濫用した違法があるものとはとうてい断定することができない。」
<争点>
・訴訟承継を認めるか(反対意見あり)
・「念のため」として、生存権の法的性質と本権生活保護基準の合法性を判断した点について(反対意見あり)
○憲法二五条の生存権の法的性質
・保護基準の設定行為に対する司法審査のあり方(補足意見あり)
<生存権の法的性質についての学説>
・プログラム説(我妻栄)
二五条は、個々の国民に具体的な権利を保障したものではなく国が積極的な政治を行う場合の目標・指針を示したもので、国は法的な義務を負わない。
・抽象的権利説(鵜飼信成、橋本公亘、池田政章、横川博)(通説)
生存権は法的な権利であり、国民は国に対して立法の要求をすることができ、立法が不存在であるときは、憲法二五条を根拠に直接に具体的な請求をすることは不可能。逆に立法がなされた場合、この法律により賦与された具体的な権利の保障を裁判で争うことが可能になる。
・具体的権利説(和田鶴蔵、高田敏、大須賀明)
二五条は、国民に具体的な請求権を保障したもの。国に生存権保障のための立法を要求できる。立法が不存在の場合、立法部の不作為の違憲(違憲確認訴訟)を主張しうる点に特色がある。
<リーディングケースとされる判例>
:最高裁昭和23年9月29日大法廷(刑州2巻10号1235頁)
<私見>
プログラム規定説を採用したとされる本判決も、一定の範囲で裁判規範としての効力を肯定している。生存権の法的性質を論じるより、「いかなる訴訟類型で、いかなる違憲審査基準によって、生存権に裁判規範としての効力を認めるか」を論じることが必要とする考えが合理的と考える。