144 『緊急逮捕』
最高裁昭和30年12月14日大法廷判決
(昭和26年(あ)第3953号 森林法違反公務執行妨害傷害被告事件)
(刑集9巻13号2760頁、判時67号7頁)
平成10年12月2日 O
[事実の概要]
昭和24年3月27日、及び29日頃に、被告人Aが他人の山林内で棕櫚皮を盗むのを見たという者の知らせで、司法巡査B、Cの2名は、同年4月6日午前8時ごろ、Aに任意出頭を求めにいった。
「棕櫚皮のことにつき一寸駐在所まで来てもらいたい」と任意同行を求めたところ、Aは病気と称してこれに応ぜず、顔を見せず大声で「行かないから行けぬ」と叫んだ。
B巡査は、証拠隠滅、逃亡のおそれがあると思い、「任意出頭してくれなければ緊急逮捕する」と告げ、被告人が裏から逃亡するのを防ぐために外に出たとたん、女性が表戸を閉めた。
5分ぐらい後に表戸があき、Aが棒を持って出てきて、「逮捕するならしてみよ」とやにわにB巡査に殴り掛かり、「お前等を先に殺してしまう」といって両巡査と組み打ちとなり、C巡査は顔面に怪我を負った。
Aは棕櫚皮を窃取したとの旧森林法83条の罪(法定刑は、3年以下の懲役、または、千円以下の罰金)により緊急逮捕され、公務執行妨害、傷害を加えて起訴された。
[第一審] 森林法違反、公務執行妨害、傷害により、懲役10ヶ月
[控訴審] 控訴棄却
[上告理由]
刑事訴訟法第210条(緊急逮捕)は、違憲無効の規定である。
[上告審]
「刑訴法210条は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪を犯したことを疑うに足る充分な理由がある場合で、且つ急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときにその理由を告げて被疑者を逮捕できるとし、・・・厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急やむを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件とし、被疑者の逮捕を認めることは、憲法33条規定の趣旨に反するものではない。」
[論点]
緊急逮捕の合憲性
[判例]
リーディングケースとなる事例は、本件の控訴審判決である。
高松高裁昭和26年7月30日判決
控訴人の、緊急逮捕なるものは、憲法違反であるとの控訴趣意について、「刑訴210条の要件の下に被疑者を逮捕し、事後逮捕に接着した時期において逮捕状が発せられたときは、逮捕手続きとしては全体として、逮捕状に基づくものということができるから、緊急逮捕は必ずしも憲法第33条に違反するものではない。」と判示した。
[学説]
合憲説
・緊急逮捕を令状による逮捕だとみなす説(団藤)
・公共の福祉論(中武)
・緊急逮捕は現行犯に準ずるとする説(小谷裁判官、池田裁判官の補足意見他)
・合理的逮捕説(斎藤裁判官)(→アメリカ憲法修正4条にならい)
・修正合理的逮捕説(田宮)
違憲説
・憲法の文理解釈上不能であるとする(平場、井上他)
相対的合憲説
・真に重大な犯罪にかぎり許されるべきで、自由の拘束が不法に行なわれる場合に備えて、救済策を講じておくべき(高田)
[私見]
憲法33条の文言から解するに、確かに緊急逮捕の制度はそぐわないもののように思われる。
しかし、合憲説をとる学者がしばしば述べているように、緊急逮捕規定を違憲とするのはたやすいが、それでは実際に沿わないところに合憲説の生ずる必然性がある。
緊急逮捕の性質を考えると、通常逮捕というよりは、現行犯逮捕に類しているもののように思われる。
しかし、現行犯に準ずると考えるのは躊躇する。蓋し、現行犯に準ずる者として準現行犯逮捕があるのであり、緊急逮捕は、時間的接着を要しない点で、類しても別個の逮捕概念であるからである。
そうすると、これを令状による逮捕の一種とみるのが妥当だが、緊急逮捕後、令状が出ないときが問題となる。思うに、緊急逮捕における令状は、その発付に重要性があるのではなく、令状の請求、つまり裁判官の審査に重要性があるものとするなら、必ずしも憲法33条の趣旨に反しないのではないかと考える。