U110 『第三者所有物の没収と告知・聴聞』
最高裁昭和37年11月28日大法廷判決
平成10年4月22日 F
<事実の概要>
被告人らは、韓国に向け貨物を密輸出しようと企て、税関の免許を受けないで貨物を船舶に積み込み、博多沖で韓国向け漁船に積み替えようとしたが、時化のために目的を遂げられないまま密輸の嫌疑で逮捕された。
第1審は、被告人らを関税法違反の未遂として有罪とし懲役刑を宣告するとともに、関税法118条1項により犯罪行為の用に供された船舶並びに犯罪に係る貨物を没収した。第2審も、これを支持したため被告人らが上告。
<上告理由>
原判決は「貨物は被告人ら所有の貨物でなく、他人からその輸送を依頼せられたものであることは容易に看守せられるのであるが、右貨物が所論のように果して金進玉の所有に属するや否やに付いては原判決も認定していないのであって記録を精査してもこの点に関する確証はない」旨判示している。即ち所有者不明であり、従ってその所有者は関税法第109条乃至第112条の犯罪が行なわれることを予め知っていたか否かを確かめることを得ないままであり、従って所有者に財産権擁護の機会を全く与えないままに没収したのであり、これは憲法第29条第1項に違反することが明らかである。
<上告審> 破棄自判
「第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であって、憲法の容認しないところであるといわなければならない。けだし、憲法二九条一項は、財産権はこれを侵してはならないと規定し、また同三一条は、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられないと規定しているが、前記第三者の所有物の没収は被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものであるから、所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁護(解)、防禦の機会を与えることが必要であって、これなくして第三者の所有物を没収することは、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである。」
「そしてかかる没収の言渡を受けた被告人はたとえ第三者の所有物に関する場合であっても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは、当然である。のみならず、被告人としても没収に係る物の占有権を剥奪され、またはこれが使用、収益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を結うすることが明らかであり、上告によりこれが救済を求めることができるものと解すべきである。」
<論点>
・所有権を剥奪される第三者に事前に告知と聴聞の機会が与えられない没収の手続は、憲法31条・29条1項に違反するか。
(憲法31条はどんな意義をもつのか。)
・被告人が第三者に代わって没収の判決の違憲性を主張できるか。
(訴訟当事者が第三者の憲法上の権利を主張することができるか。)
<私見>
判決を支持する。憲法31条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命もしくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」と定めている。この規定は、人身の自由についての基本原則を定め、人権保障にとってきわめて重要な意味をもつものである。
本件では、31条の法意について、手続の法定のみを要求しているのではなく、法定されるべき手続の内容の適正さも要求していると解釈しており、また、その適正手続の内容として告知と聴聞が必要であるとしている。こういった適正手続の要請は、個人の権利自由の制限が必要な限度を超えずに適切に行なわれるために不可欠の要請であると考える。
また、本件では、被告人が第三者に代わって没収の判決の違憲性を争えるとしている。本件では明かに事件と無関係の違憲の主張がなされたわけではなく、第三者自身による権利擁護の困難性等を考慮すると支持されるべきものと考える。