T94 『生糸の輸入制限と経済活動の自由』西陣ネクタイ訴訟
最高裁平成2年2月6日第三小法廷判決
(訟務月報36巻11号2242頁)
平成10年6月3日 I
<事実の概要>
京都・西陣の絹ネクタイ生地製造業者であるX(原告・控訴人・上告人)らは、国会が行ったいわゆる生糸の一元輸入措置の実施及び輸入生糸を売り渡す際の売渡方法、売渡価格等の規制について規定した生糸価格安定制度を内容とする繭糸価格安定法の改正に対し、右改正が外国産の絹ネクタイ及び絹ネクタイ生地の我が国への輸入については何らの規制措置を講じないままで行われたため、それまで自由であった外国生糸を国際糸価で購入する途を閉ざされ、国際糸価の約2倍の国内価格で生糸を購入せざるを得なくなり、価格競争を喪失したとし、右改正は、憲法22条1項、25条1項、29条1項に違反するものであり、Xらは、国会の違法な立法行為により損害を被ったとして、国家賠償法1条1項によりY(国・被告・被控訴人・被上告人)に対して、その損害の賠償を求めたものである。
<下級審>
第一審判決は、本件立法行為には違法性はないと判示してXらの請求を棄却。
第二審判決は、本件立法行為は国賠法1条1項の適用上違法ではないと判示してXらの控訴を棄却。
<上告理由>
繭糸価格安定法改正の憲法22条1項、25条1項、29条1項違反、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求。
<最高裁>
「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うというように、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではないことは、当裁判所の判例とするところであり、また、積極的な社会経済政策の実施の一手段として、個人の経済活動に対し一定の合理的規制措置を講ずることは、憲法が予定し、かつ、許容するところであるから、裁判所は、立法府がその裁量権を逸脱し、当該規制措置が著しく不合理であることの明白な場合に限って、これを違憲としてその効力を否定することができるというのが、当裁判所の判例とするところである。昭和51年法律第15号による改正後の繭糸価格安定法12条の13の2及び3は、・・・営業の自由に対し制限を加えるものではあるが、以上の判例の趣旨に照らして見れば、右各法条の立法行為が国家賠償法1条1項の適用上例外的に違法の評価を受けるものではないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」
<争点>
・営業活動を制限する立法がいかなる場合に憲法22条1項に定める営業の自由を侵害するか。
・国の立法行為について、国賠法の適用があるか。
<学説>
精神活動の自由とは違い、経済的活動の自由の規制については緩やかな「合理性の基準」でいいといわれるが、経済的自由についても規制が消極的・警察的か積極的・政策目的かによって異なる審査基準を用いるという考え方(二分法)が有力である。
消極的規制
・・・他者の生命・健康への侵害を防止するなど消極的・警察的目的を達成するための制約であり、規制の程度・手段は害悪の発生を防止するための必要最小限のものにとどまることが要請される。
積極的規制
・・・国民経済の円滑な発展や社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極目的を達成するための制約であり、目的達成のために必要かつ合理的な範囲にとどまる限り、許されるべきであって(合理性の基準)、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限って違憲となる(明白性の原則)。
<リーディングケースとされる判例>
小売市場事件 最高裁昭和47年11月22日(刑集26巻9号586頁)
在宅投票制度廃止訴訟事件 最高裁昭和60年11月21日(民集39巻7号1512頁)
<私見>
二分法では、規制の目的が消極か積極かだけで審査基準が決まってしまい、積極目的の規制だと認定されれば、いとも簡単に合憲との結論に導かれることになりかねない。
本件の繭糸価格安定法は、養蚕農家を保護するもので、積極目的規制に属するものであると評価され、それ自体には問題はないが、養蚕農家に対する保護とネクタイ業者に対する保護の間には大きな不均衡があると思われ、その点について何らかの考慮をすべきであったのではないかと考える。