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T67 『電話の傍受と通信の秘密』

最高裁平成11年12月16日第三小法廷判決
(刑集53巻9号1327頁)


2001年04月25日(水) N 

【事実の概要】

 平成6年6月1日、北海道警察旭川本部に、暴力団甲組覚せい剤密売撲滅チームが編成され、捜査の結果、甲組から覚せい剤を買ったと供述した者のうち何人かが第一電話に電話をして覚せい剤を購入していること、第一電話は甲組事務所のあるマンションに設置されており、覚せい剤申し込みの専用電話である可能性が極めて高いこと、覚せい剤密売に関する受付担当者と譲渡担当者との連絡には第二電話が利用されている可能性があることなどが判明した。同月7日、覚せい剤自己使用罪で逮捕されたNらの供述から、当該覚せい剤は第一電話により買い受けられたものであることなどが判明したが、電話の受付担当者、覚せい剤の譲渡担当者、両者の連絡方法など組織内部の事情は解明できなかった。

 捜査官は、被疑者不祥によるNに対する覚せい剤の営利目的譲渡を被疑事実として、同年7月20日、第一・第二電話に着発信されている通話内容であって、覚せい剤取引に関する通話内容を検証することができる旨の検証令状を請求した。旭川簡裁裁判官は同日、検証の期間を、同年7月13日・23日の2日間、いずれも午後5時から午後11時までとし、検証の方法を地方公務員2名を立ち合わせ、対象外と思料される通話内容については直ちに電話スイッチを切断させ、録音を中止する等の条件を付した検証令状を発布した。捜査官は同月22日午後、NTT旭川支店において検証令状を呈示した後、本件検証を実施した。その結果等により、被告人らが共謀の上、Nらに覚せい剤を譲渡したとして起訴された。

 旭川地裁は、本件検証令状に基づく電話傍受等は適法であるとして、有罪判決を言い渡した。被告人は控訴を申し立てたが、札幌高裁は控訴を棄却した。
 これに対し、本件当時電話傍受を捜査の手段として許容する法律上の根拠はなかったとして、強制処分法定主義違反を強調して、本件検証は憲法31条、憲法21条2項などに違反すると主張し、上告した。


【判旨】 (上告棄却)

 「電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分であるが、一定の要件の下では、捜査手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきで・・・ある。そして、重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われた蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行なうことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である。」として、電話の傍受を認めた。


【元原裁判官の反対意見】

 電話傍受に不可避的に伴う、@傍受すべき通話に該当するか否かの判断をするための選別的な聴取は、検証のための「必要な処分」の範囲を超え、また、A事後の告知及び不服申立ての各規定を欠く点で適正手続の保障への配慮が不十分であり、「以上の二点において、電話傍受を刑訴法上の検証として行うことはでき」ず、本件電話検証は違法である。


【通信傍受法について】

 犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(いわゆる盗聴法)が、平成12年8月15日に施行された。この法律の内容は以下の通りである。

傍受の要件
 組織的殺人、薬物・銃器の不正取引、集団密航の犯罪捜査で、他の方法では犯人の特定や真相究明が著しく困難である場合。

傍受の手続き
 検察官や警察官らが裁判所に容疑事実や傍受の場所などを記載した傍受令状を請求。裁判所が令状を出した後、捜査官は通信事業者など立会人の立ち会いの下で通信傍受を行う。しかし、立会人に切断権は与えられていない。

対象犯罪以外の傍受
 傍受対象犯罪に関連した通信かを判断するため、必要最小限度の範囲で傍受(スポット傍受)が認められる。傍受令状以外でも短期1年以上の懲役か禁錮相当の犯罪に関する通信が行われた場合は傍受できる。

傍受の通知
 傍受対象者には原則30日以内に傍受したことなどを通知。対象者は記録を閲覧できる。傍受に関する処分に不服がある場合は裁判所に不服申立できる。しかし、犯罪と無関係な通信の場合、通信の当事者への事後通知はなされない。


【参考判例】

・東京高判平成4年10月15日
 電話を利用した、非対面方式による、暴力団の組織ぐるみでの覚せい剤譲渡事案。
 第一審甲府地裁は、検証令状による電話の傍受を適法とし、被告人を有罪とした。

 東京高裁は、「電話の通話内容を・・・傍受、録音することは、・・・通信の秘密を侵害する行為であり、犯罪捜査のためといえども、原則としてこれが許されない・・・。しかしながら、電話による会話が何らの制約も受けないものでないことはもとよりであり、犯罪の捜査においては、通信の秘密が侵害されるおそれの程度を考慮しつつ、犯罪の重大性、嫌疑の明白性、証拠方法としての重要性と必要性、他の手段に出る困難性等の状況に照らして、真にやむを得ないと認められる場合には・・・憲法上許されないわけではないと解される。」として、控訴を棄却した。


【私見】

 元原裁判官の反対意見のとおり、当該決定の多数意見には賛成できない。さらに、令状以前に、公権力による通信の傍受は認めるべきではないのでは、との疑問も残る。
 また、通信傍受法についても、これを認めることはできない。上記のような致命的な問題点があるからである。さらに、この法律が電子メール等の傍受を認めていながら、条文ではそれらの傍受を想定した箇所が全く見られない。さらに、技術的な問題ではあるが、現時点では携帯電話に対応していない等、実効性についても疑問が残る。


2004.7.22 upload

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