T-96 『公衆浴場の適正配置規制』
最高裁昭和30年1月26日大法廷判決
(昭和28年(あ)第4782号 公衆浴場法違反被告事件)
(刑集9巻1号89頁)
平成13年7月11日 K
【事実の概要】
公衆浴場法2条は、@公衆浴場業は都道府県知事の許可制、A知事は公衆浴場の設置若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるときは、許可を与えないことができる、B設置場所の配置基準については都道府県の条例に委任する、としている。これを受けた福岡県条例は、配置の基準を「既に許可を受けた公衆浴場から市部にあっては250m以上、郡部にあっては300m以上の距離」と定めている。
被告人は、許可を受けずに公衆浴場を営んだため、法2条1項違反の罪に問われ、第1審において罰金5000円を言い渡され、第2審もこの判決を支持したので、公衆浴場法の適正配置規制及びそれに基づく条例の距離制限規定は、公共の福祉に反する場合でないのに職業選択の自由を不当に制限するものであって違憲である、と主張して上告した。
【判旨】(上告棄却)
公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要欠くべからざる、多分に公共性を伴う厚生施設である。その設立を防止する等その配置の適正を保つために必要な措置が講ぜられないならば、その偏在により国民の利用上の不便が生じ、また、その濫立により、浴場経営者に無用の競争を生じその経営を経済的に非合理ならしめ、ひいて浴場の衛生設備の低下等好ましからざる影響をきたすおそれなきを保し難い。このような事態は、国民保健及び環境衛生の上から、出きる限り防止することが望ましいから、配置の適正を許可条件とすることは、憲法22条に違反しない。
【学説】
違憲説
@日本国憲法は自由競争を基調とするから、公共の福祉による制限もできる限り厳密に限定する必要がある。
A自由競争による経済の自立性によっておのずから配置の適正がもたらされる。
B衛生設備の低下に対しては、公衆浴場の取締、許可の取消等の行政措置をとるので十分であり、距離制限を設けることは合理的制限の範囲を越えている。
合憲説(→公衆浴場の事業の公共性と企業の特殊性)
@公衆浴場は国民衛生の確保上不可欠で、燃料不足時等には特別の配給を与えても確保すべく、さらに必要ならば地方公共団体みずからがこれを設置すべきもの、という公共性をもち、その結果料金を低廉にすることが不可欠で、料金決定に関して許可制がとられている。
A・営業の性質上付近の住民しか日常利用しないという意味で企業の弾力性が極度に乏しい。
・その施設の衛生水準が強く要求される。
・建設費が巨額であるにもかかわらず他業への転用可能性がない。
↓
このような業種については、公営を建前とはしない以上、業者に健全な経営を保障する以外に事業の遂行を確保する道はない。
【参考判例】
☆小売市場許可制合憲判決(最大判昭和47年11月22日)
経済的自由に対する規制を、消極的規制と積極的規制とに二分し、積極規制に対して明白の原則を採用した。
☆薬事法違憲判決(最大判昭和50年4月30日)
消極的規制に対して、立法目的について「必要性・合理性」の基準及び規制手段について「同じ目的を達成できる、より緩やかな規制手段」の基準を採用した。
☆公衆浴場法違反事件(最大判平成元年1月20日)→合憲
☆公衆浴場法違反事件(最大判平成元年3月7日)→合憲
【私見】
判例の論理については違憲説からも合憲説からも批判されるところであるが、今日においては、公衆浴場は濫立どころか過少傾向にあり、公衆浴場が自宅に浴室のない人の需要に応える「厚生施設」という性格を強めていることから、合憲説が妥当であると考える。