『学問の自由と大学の自由』――ポポロ事件
最高裁昭和38年5月22日大法廷判決
(昭和31年(あ)第2973号 暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件)
(刑集17巻4号370頁、判時335号5頁)
平成12年7月26日 M
【事実の概要】
昭和27年2月20日、東京大学の教室において、同大学公認の学生団体「ポポロ劇団」が正式な許可を得て、松川事件を素材とする演劇発表会を開催し、同会場に警察官4名が私服で潜入していたのを、学生が発見し、これらの警察官に暴行を加えて、警察手帳を取り上げるなどした事件。
【論点】
学問の自由・大学の自治と警察権との関係
【第一審判旨】(東京地裁昭和29年5月1日)
大学は学問の研究及び教育の場であり、警察権力ないし政治勢力などの外部からの干渉を排除し自由であることによってのみ、真理の探究が可能となり、それを制度的乃至状況的に保障するものが大学の自治であり、警察当局は大学の要請により出動するものであるとし、警察官の被害は軽微でありこれにより確保された大学の自治という法益を考えると、後者の法益はより重要な利益価値をもつので被告人の行為は違法性を阻却するものとして無罪とされた。
【第二審判旨】(東京高判昭和31年5月8日)
第一審と同様に警察官の学内への立ち入り行為を違法行為とし、また、警察官職務執行法第6条2項及び4項を引用し、この規定の趣旨からも本件の立ち入りは正当ではなくこれに対する学生の行為は正当であり、違法性が阻却されるとして、控訴を棄却した。
【最高裁判旨】
憲法23条の学問の自由は、学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由を含み、学問の自由の保障はすべての国民に対してそれらの自由を保障するとともに、大学が学術の中心として真理探究を本質とすることから、特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨とし、教育ないし教授の自由は、学問の自由と密接な関係を有するのが必ずしもこれに含まれないが、大学については、憲法の右の趣旨と、学校教育法52条に基づいて教授の自由も保障されるが、この場合の自由も公共の福祉による制約を免れない、と解する。そして、大学の自治はこれらを保障するためのものであり、「大学の施設と学生は、これらの自由と自治の効果として、施設が大学当局によって自治的に管理され、学生も学問の自由と施設の利用を認められる」とする。政治的、社会的活動に当たる行為は大学の自治の範囲に含まれず、実社会の政治的、社会的活動に当たる行為をする場合には大学の自治と自由は享有せず、ポポロ劇団の発表は反植民地デーの一環として行われ、資金カンパ、松川事件を取り上げるなど実社会の政治的、社会的活動に当たる行為であり、学問研究の発表に当たらない。したがって、本件の集会は学問の自由を享有せず、これに警察官が立ち入っても、大学の学問の自由と自治を侵さない、として原判決を破棄し裁判のやり直しを命じた。
《類似判例》
―大阪学芸大学事件―(大阪高判昭和41年5月19日)
同大学の女学生と接触し、情報収集活動を継続していた警察官が、集会の当日に接触しているところを学生に発見され、大学構内に強制的に連れ去られた事件。
学生の活動がある程度大学の自治に含まれる場合もあるが、その自治の範囲は教授その他の研究者の自治の範囲よりも限局され、大学当局以外の第三者との関係においてまで一般に自治が承認されているとはいえないとし、また、警備情報活動の目的は、公共の福祉の実現にあり、純粋に治安維持の観点から任意な方法で警備情報活動をなすことは、大学自治の侵害にはならず、大学当局の承認を得なくても、ただちに違法行為とすることはできないとした。
―愛知大学事件―(名古屋高判昭和45年8月25日)
犯罪捜査を目的として学内に立ち入った警察官が暴行を加えられた事件。
犯罪捜査のためとはいえ、学内立ち入りの必要性の有無を警察側の一方的認定に委ねれば、やがて、その面から大学の自主性が損なわれるおそれがでてくるので、緊急の場合やその他やむを得ない場合は別として、大学内への警察官の立ち入りは、裁判官の発する令状による場合は別として、一応大学側の許諾または了解のもとに行うことを原則とすべきであるとし、大学自治の原則を一般犯罪捜査に対しても適用した。
【私見】
大学は真理探究の場であり、その研究・発表当の自由を保障し、他からの干渉を受けないために学問の自由、および、これを確保するための制度的ないし状況的保障としての大学の自治は尊重すべきであるが、それを尊重するあまり違法性を阻却することに対しては賛成できない。また、政治的・社会的活動に当たる行為が、「大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しない」といっても、これを不当に犯すことは憲法第21条の観点から考え、その行為が公共の福祉に適合しない場合に警察権が行使されるべきであると考える。