T―73 取材フィルムの提出命令と取材の自由
―博多駅事件
最高裁昭和44年11月26日大法廷決定
(刑集23巻11号1490頁)
平成12年7月12日 M
<事実の概要>
昭和43年1月米原子力空母エンタープライズ佐世保寄港阻止闘争に参加する途中、博多駅に下車した三派系全学連学生に対し、待機していた機動隊は駅構内から排除するとともに、集札口外で検問と持ち物検査を行った。この警備実態につき、護憲連合等は、警察官に特別公務員暴行陵虐・職権濫用罪にあたる行為があったとして、告発したが、地検が不起訴処分にしたため刑訴法262条により付審判請求を行った。この審理を担当した福岡地裁は、NHK他テレビ局三社に対し、事件当日のニュースフィルムの任意提出を求めたが拒否されたため、刑訴法99条2項にもとづき当該フィルムの全部の提出を命じた。
この命令に対して放送四社は、報道の自由の侵害と提出の必要が希薄であることを理由に一般抗告を行った。
<争点>
@「取材の自由」は憲法上の権利として認められるか。
A「取材の自由」と「公正な裁判の確保」という憲法的価値が衝突した場合どう対処するか。
<判決>
福岡高裁は、報道の自由といえども公共の福祉により制限されること、裁判でのフィルム使用は「態様を異にした公開」とも考えられ報道機関の不利益は少ないこと、またフィルムの提出は審理にとって必要であること等の理由で抗告棄却の決定をした。
最高裁は、報道の自由は、規定した憲法21条の保障の下にあり、報道のための取材の自由も、同条の精神に照らし、十分に尊重に値するものといわなければならない。しかし、取材の自由といっても何らの制約を受けないものではない。したがって、報道機関の取材フィルムに対する提出命令が許容されるか否かは、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するにあたっての必要性の有無を考慮するとともに、これによって取材の自由が妨げられる程度を比較考慮して決するべきであるとした。本件の場合、フィルムは重要な価値、必要性を有している。一方、報道機関が蒙る不利益は将来の取材の自由が妨げられるおそれのあるというのにとどまると解されるため受忍されなければならないとし、抗告を棄却した。
<類似判例>
・TBSビデオテープ押収事件(最高裁平成2年7月9日判決)
警察が放送済みのテレビ番組の未編集テープを暴力団員の犯罪の証拠として押収した事件。
――博多駅テレビフィルム事件判旨を引用し、軽視することのできない事件、重要な価値を有する点、放映が不可能になって報道の機会が奪われるわけではない、取材協力者、このような取材を保護する必要性はないこと等を理由に挙げ、差押は受忍すべきとした。
・石井記者事件(最高裁昭和27年8月6日)
新聞記者が刑事手続に証人として召喚されたが、取材源秘匿のため証言を拒否し、自らが起訴された事件。
――憲法21条は、新聞記者に特殊の保障を与えたものではない。また、上記の規定の保障は、公の福祉に反しない限り、いいたいことはいわせなければならないということである。未だいいたいことも内容も定まらず、これからその内容を作り出すための、取材に関しその取材源について公の福祉のため最も重大な司法権の発動につき必要欠くべからざる証言の職務をも犠牲にして、証言拒絶の権利までも保証したものではないとし取材源秘匿権を否定した。
<私見>
報道の自由の前提をなす取材の自由は、報道は情報の収集・編集・発表という連鎖であるため報道の自由の一環として憲法上保障されるべきと考える。その上で、報道されたフィルムは公開されているものであり、それは少なくとも中立的な立場で報道すべきニュース番組で流されたものである。また、取材者と提供者との関係も直接的ではなく間接的なものであり、将来の取材活動をなす妨げにはならない事を考慮すれば、裁判所の提出命令は妥当である。