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T―27 『空港の騒音公害と人格権』
       ―大阪空港公害訴訟―
最高裁昭和56年12月16日大法廷決定
(民集35巻10号1369頁)


2000年11月29日(水) N 

【事実の概要】

 原告Xらは、大阪国際空港に隣接ないし近接する地域に居住するものである。大阪国際空港は、昭和13年開設、昭和39年6月、ジェット機が乗り入れ、さらに、昭和45年2月、従来のA滑走路(1,826m)に加えてB化滑走路(3,000m)が供用を始めるようになって、Xらは、著しい騒音等の空港公害にさらされるようになった。

 Xら居住地域における騒音量は、おおむね大型ジェット機で90〜105ホン、プロペラ機でも80から90ホンあり、WECPLN値(騒音量に機数を加味した単位で、24時間中における騒音の継続時間を積算してそれを対数評価したもの)も90〜95に達していた。政府が設定した環境基準は、住居専用地域で70以下、住居地域で75以下である。

 そこで、Xらは、本件空港に離着陸する航空機の騒音、排気ガス、振動による精神的・身体的被害、生活妨害(睡眠妨害、テレビ・電話・会話障害等)、教育破壊を主張し、空港の設置・管理者たる国に対し、差止めと賠償を求め、昭和44年末以降、順次大阪地裁に訴えを提起した。
 請求の趣旨は、@人格権・環境権に基づき、夜間9時から翌朝午前7時まで、空港の使用禁止、A提訴までの非財産的損害の内金として一人50万円を支払うこと、B将来の損害賠償として騒音が65ホン以下になるまで、毎月一人1万円を支払うこと、以上を求めるものである。

 第一審判決(大阪地判昭和49年2月2日)は、Bを棄却したほか、@Aにつき一部を認容した。控訴審判決(大阪高判昭和50年11月27日)は、@ABにつき、ほぼXらの請求を全面的に認めた。
 この判決を不服として、被告国側が上告。


【判旨】

@「航空機の離着陸のためにする国営空港の供用行為は、運輸大臣が空港管理権と航空行政権とをその総合的判断に基づいて不可分一体的に行使する作用とみるべきであるから、一定の時間帯における右塀用の差止めを求める本件訴は、不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになり、行政訴訟の方法により何らかの請求をすることができるかどうかはともかくとして、民事上の差止請求としては不適法である」として、夜間の飛行差止請求については、門前払いにあたる訴え「却下」

A「居住地域に近接しており、航空機の離着陸により周辺住民に騒音等による甚大な影響を与えている空港につき、右被害の発生を防止するのに十分な措置を講じないままに空港を維持・管理してきたことが、国家賠償法二条にいう「瑕疵」に当たる」として、過去の損害賠償請求に関して「認容」

B「現在不法行為が行われており、同一態様の行為が将来も継続することが予想されても、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点において始めてこれを認容することができ、かつ右権利の成立要件の具備については債権者がこれを立証すべきものと考えられる場合には、かかる将来の損害賠償請求権は、将来の給付の訴を提起することのできる請求権としての適格性を有しない。」として、将来に対する損害賠償請求については「却下」。  


【環境権について】

 環境権は、一般に、「良好な環境を享受し、かつ支配する権利」と解される。
 本件控訴審判決では、「およそ、個人の生命・身体の安全、精神的自由は、人間の存在に最も基本的なことがらであって、法律上絶対的に保護されるべきものであることは疑いがなく、また、人間として生存する以上、平穏、自由で人間たる尊厳に相応しい生活を営むことも、最大限尊重されるべきものであって、憲法一三条はその趣旨に立脚するものであり、同二五条も反面からこれを裏付けているものと解することができる。このような個人の生命、身体、精神および生活に関する利益は、各人の人格権は何人もみだりにこれを侵害することは許されず、その侵害に対してはこれを排除する権能が認められなければならない。」と論じ、人格権にもとづく差止請求を認めたが、環境権については「当裁判所は、原告らの人格権に基づく差止請求を認容するのであり、後記の損害賠償についても人格権侵害を根拠とすれば足りるものと解するので、原告ら主張の環境権理論の当否については判断しない。」としており、環境権についても認められる可能性を残している。


【参考判例】

名古屋南部公害訴訟(名古屋地判平成12年11月27日)
 名古屋市南部や周辺の公害病認定患者らが、工場排煙と自動車排ガスによる大気汚染公害の責任を問い、企業10社と道路管理者の国に損害賠償と汚染物質の排出差し止めを求めた裁判。
 名古屋地裁は、「人格権に基づき道路沿道についての汚染物質排出差し止めを求める訴えは適法である」としたうえで、自動車排ガス中の浮遊粒子物質(SPM)の一定濃度以上の排出差止を命じた。  


【私見】

 差止請求につき、「却下」とした最高裁判決は妥当でないと解し、人格権に基づく差止請求を認めた大阪高裁判決を支持する。
 現に、今年1月の尼崎公害訴訟の神戸地裁判決、さらに今月27日の名古屋地裁判決など、人格権に基づく差止請求を求める判決が相次ぎ、この流れは続くものと思われる。


2004.7.22 upload / 7.24 update

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