T−25 酒類製造免許制と酒をつくる権利 ―どぶろく裁判―
最高裁平成元年12月14日第一小法廷判決
(刑集43巻13号841頁)
2000年6月21日(水) N
【事実の概要】
被告人は清酒を製造しようと企て、所轄A税務署長の清酒製造の免許を受けずに、同人宅において、清酒約37リットルを製造するとともに、清酒の原料となるその他の雑酒約60リットルを製造したが、これについては、収税官吏に差し押さえられたため、清酒製造の目的を遂げなかった。そして、収税官吏が昭和59年2月27日に、同人宅において右雑酒を押収したことから、東京国税局長は同年4月6日同人を無免許で酒類を製造したものとして告発した。
一審千葉地裁(昭和61.3.26)は、自己消費目的の酒類製造を酒税法で規制することが憲法に違反しないという判断を示し、被告人に罰金30万円の有罪判決を言い渡した。また、二審東京高裁(昭和61.9.29)も一審のこの法令解釈に違法はないとした。
そこで、被告人弁護士等は、自己消費目的の酒類製造を「放任しても酒税収入が減少する虞はないから、酒税法7条1項、54条1項は販売を目的とする酒類製造のみを処罰の対象とするものと解すべきであり、自己消費を目的とする酒類製造を酒税法の右各規定により処罰するのは、法益侵害の危険のない行為を処罰し、個人の酒造りの自由を合理的な理由がなく制限するものであるから、憲法31条、13条に違反する」として、上告したのが本件である。
【判旨】 上告棄却
酒税法の右各規定は、自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず処罰することとしたものであり(昭和30.7.29第二小法廷判決)、これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白とはいえず、憲法31条、13条に違反するものではないことは、当裁判所の判例(昭和60.3.27大法廷判決、なお、昭和35.2.11第一小法廷判決)の趣旨に徴し明らかである。
【自己消費目的の酒類製造について】
一審の千葉地裁判決では、自己消費目的の酒類製造を個人の経済的自由のひとつととらえ、「あまりに零細な規模の製造業者では、生産性が低く、収益も少額なため経営の安定的な維持を期し難く、また、種類製造者の数が膨大になった場合には、既存の種類製造業者の売り上げが減少したり、種類製造業者の手を経ない酒類の販売、消費が大量になって、消費者からの酒類代金の回収を担当している酒類販売業者の経営面、ひいては種類製造業者の経営面に影響を及ぼし、酒税収入の安定かつ効率的な確保が困難になる」「酒類が生活必需品ではなく代表的な嗜好品であること」から、免許制による自己消費目的の酒類製造の禁止は、その目的において一応の必要性と合理性を認めることができ、また、その規制手段においてそれが著しく不合理であることが明白であるとは認められない、と判示した。
【参考判例】
☆最判昭和30.7.29(刑集9巻9号1972頁)
政府の免許を受けないで、酒類を製造した以上、たとえその酒類を自己等の引用に供するために製造したもので、販売・利得の目的がなかったとしても、無免許酒類製造罪を構成する、と判示した。
☆最判昭和60.3.27 〜サラリーマン税金訴訟〜(判百T−35)
租税法の合憲性判断について、憲法上、国に課税権があり、一方、国民には租税立法に基づき納税義務のあることが予定されていること、そして、課税要件等について、憲法はその内容について特に定めることをせず、租税立法にゆだねていることを明らかにした上で、「国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とする」などのため、「租税法の定立については、国家財政等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な裁量的判断にゆだねるほかなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである」と判示し、租税法については、それが立法府の裁量的判断を逸脱し著しく不合理であることが明白でない限り、その合憲性を否定することができない、と判示した。
☆最判昭和47.11.22 〜小売市場事件〜(判百T−92)
個人の経済活動の自由に対する法的規制措置については、立法府の政策技術的な裁量に委ねるほかなく、立法府がその裁量権を逸脱し、当該規制が著しく不合理であることが明白である場合に限って違憲とする、と判示した。
☆最判平成4.12.15 〜酒類販売の免許制〜(判百T−95)
酒類販売製造制度を存置すべきとした立法府の判断が、政策的・技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるとまでは断定しがたい、と判示した。
【私見】
酒類製造免許制については、酒税法の目的、「税収の確保」「社会的管理」「品質の保持」を考慮すると、一応合理的であり、違憲とまでは言えないであろう。しかし、自己消費目的の酒類製造禁止を合憲とする判旨には疑問を感じる。たしかに、「酒を造る権利」の重要性は小さいかもしれないが、自己消費目的の酒類製造による税収の減少は微々たるものであり、「税収の確保」をもって規制の目的とするのは、合理性を欠くものと解する。