U―207 『夫婦所得課税』
最高裁昭和36年9月6日大法廷判決
(昭和34年(オ)第1193号 所得税審査決定取消事件)
(民集15巻8号2047頁)
12月13日(水) J
【事実の概要】
昭和32年度所得金額の確定申告に際し、自分の名義で取得した同年の総所得のうち給与所得及び事業所得については、妻X´が家庭にあってなした家事労働など妻の協力により得られた所得であるから夫婦の各自に等分して帰属すべきであると考えて、給与所得と事業所得をX・X´で折半して、半分ずつについて確定申告した。これに対し、税務署長は、X・X´の所得金額をXの所得と認定して更生処分をした。Xは直ちに審査請求を行ったが、Y国税局長もXの審査請求を棄却したので、Xは本訴を提起して審査決定の取消を求めた。第一・第二審ともX敗訴。
Xは、このような課税方法は、民法762条1項に基づくものであるが、この規定は妻の協力を無視し、憲法24条に違反する、として上告。
【判決理由】
憲法24条は「民主主義の基本原理である個人の尊厳と両性の本質的平等の原則を婚姻および家族の関係について定めたものであり、男女両性は本質的に平等であるから、夫と妻との間に、夫たり妻たるの故をもって権利の享有に不平等な扱いをすることを禁じたものであって、結局、継続的な夫婦関係を全体として観察した上で、婚姻関係における夫婦が実質上同等の権利を享有することを期待した趣旨の規定と解すべく、個々具体の法律関係において、常に必ず同一の権利を有すべきものであるというまでの要請を包含するものではないと解するを相当とする。」
民法762条1項は「夫と妻の双方に平等に適用されるものであるばかりでなく、所論のいうように夫婦は一心同体であり一の協力体であって配偶者の一方の財産取得に対しては他方が常に協力寄与するものであるとしても、民法には、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦相互の協力、寄与に対しては、これらの権利を行使することにより、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされているということができる。しからば、民法762条1項の規定は、前記のような憲法24条の法意に照らし、憲法の右条項に反するものということができない。」
それ故、本件に適用された所得税法が「民法762条1項によるいわゆる別産主義に依拠しているものであるとしても、同条項が憲法24条に違反するものといえないことは、前記のとおりであるから、所得税法もまた違憲ということはできない。」
【学説】
●憲法の規制態様に応じて、違憲の態様にも2つのものがある。
1、憲法が特定範囲内で種々の法制度の採用可能性を容認している場合
――所定範囲を逸脱して採用された制度のみが違憲となり、許容範囲内で採用される限り、当該制度の目的適合性の優劣のごときは違憲理由とはなり得ない。
2、憲法が特定の具体的制度を排他的に規定している場合
――これと異なる制度の採用はすべて違憲となる。 (小島)
●夫婦別産制が、現行法において実現したのは、旧法における管理共通制が、個人の尊厳と両性の本質的平等に徹しないうらみがあるからであった。さらに、管理共通制によって、夫に妻の財産にたいする管理権・収益権を与えることが弊害をもたらし、不平等をもたらすことに由来する。したがって、民主主義的原理の志向が、現行法の改正を生み、夫婦別産制の採用におよんだ。 (中川)
●・・・所得税が重要な位置を占めているいま一つの理由は、それが公平負担の要請に最もよく適合していることである。・・・、所得は、人の総合的税力の標識として最もすぐれており、・・・、担税力に即した公平な税負担の配分で可能にするのである。 (金子)
●所得税の課税単位⇒個人単位主義・夫婦単位主義・家族単位主義
【参考判決】
東京地判昭和63・5・16 判時1281号87頁
――現行法のもとで個人単位で課税される所得について、夫婦が民法756条によって、婚姻に先立ち、共有財産契約を結び、夫の所得の半分は妻に属することとした場合に、所得税法上所得の帰属を夫婦に二分する効力までは有しないとされた事例。
「・・・ある収入が誰に帰属するかという問題は、単に夫及び妻の合意のみによって決定されるものではなく、・・・例えば雇用契約に基づく給料収入であれば、その雇用契約の相手方との関係において決定されるものである。・・・したがって、・・・仮に夫婦間において夫婦の双方が右給料を受け取る権利を有すると合意したとしても、それだけでは、その合意は、雇用契約の相手方たる使用者に対しては何らの効力を生ずるものではないといわなければならない。・・・。」
【私見】
本判決は、確かに民法と所得税法の趣旨や目的は違い、その判断のし方は少し違っていると考える。民法762条1項は、個人の尊厳と両性の本質的平等のために「夫婦別産制」をとり、民法全体でみると、違憲ではないと考える。また、所得税法は「個人単位課税方式」をとり、妻の内助の功を評価するため配偶者特別控除の制度等の採用をしているため、これも違憲ではないと考える。