U−169 自衛隊・戦力・駐留軍 ―砂川事件―
最高裁昭和34年12月16日大法廷判決
(昭和34年(あ)第710号 日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約
第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法違反被告事件)
(刑集13巻13号3225頁、判時208号10頁)
平成13年1月10日 E
【事実の概要】
昭和32年7月8日早朝、東京調達局がアメリカ軍の使用する立川飛行場内民有地の測量を開始した際、千余名の集団が反対の気勢をあげ、滑走路北端付近の境界柵が数10メートルにわたって破壊された。被告人等は右集団に参加していたが、正当な理由がないのに右境界柵の破壊された箇所から飛行場内に立ち入ったとして日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(改定前)第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法違反として起訴された。
【第一審】 (伊達判決)
憲法9条は自衛隊を否定するものではないが、アメリカ合衆国軍の駐留が、憲法第9条2項前段の戦力を保持しない旨の規定に違反し許すべからざるものであるということを前提として、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法2条が、憲法31条に違反し無効であるとした。
【最高裁】(跳躍上告) 原判決の破棄差戻し
憲法9条は「戦争を放棄し・・・戦力の保持を禁止しているものであるが・・・これによりわが国が主権国家として持つ固有の自衛権は何ら否定されるものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではな」い。
「憲法前文にも明らかなように、われら日本国民は・・・全世界の国民と共にひとしく・・・平和のうちに生存する権利を有することを確認するのである。しからば、わが国が、時刻の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。・・・そしてそれは、必ずしも原判決のいうように、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等に限定されたものではなく、わが国の平和と安全を維持するための安全保障であれば、その目的を達成するに相応しい方式又は手段であるかぎり・・・他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではない。」
憲法が禁止する戦力とは「わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しない。」
安保条約は「主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有するものというべきであって、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、・・・内閣および・・・国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点が少なくなく、・・・右違憲なりや否やの法的判断は、純司法低機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじます、・・・一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものである。」
【参考判例】
・那覇市軍用地訴訟(那覇地裁平成2年5月29日判決)
駐留軍用地特措法によりなされた土地使用認定処分の取消しを求めて、那覇市が安保条約が違憲であるとし、内閣総理大臣を被告とした訴訟。
本件最高裁判決を踏襲し、安保条約が一見極めて明白に違憲無効であるとは認められないとして原告の請求を棄却した。
【参考学説】
・憲法優位説
―憲法と条約との形式的効力関係について、憲法が条約に優位するとするもの。
・条約優位説
―国際協調主義、条約遵守義務(憲98A)等を論拠とするもの。
通説は前者である。その理由としては、
@条約の締結件や成立用件が憲法に基づくものである以上、条約によって修正することはできない。
A条約締結手続が憲法改正手続より簡易であること等。
【私見】
安保条約がわが国の自衛の途として認められることに関しては賛成するが、その理由として述べられた高度な政治性を有する条約が違憲か否かについての司法権の限界を言っている点については、統治行為論を採る論拠を明確にする必要があると思う。