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U−168 『天皇の民事裁判権』

最高裁平成元年11月20日第二小法廷判決
(平成元年(行ツ)第126号 住民訴訟による損害賠償請求事件)


平成13年1月10日   M  


【事実の概要】

 千葉県民である原告Xは、県知事Aが昭和63年9月23日から昭和64年1月6日まで、昭和天皇の病気の快癒を願う県民記帳所を設置し、これに県の公費を支出したことを違法として、Aに対しては、地方自治法242条の2第1項4号に基づき千葉県に代位して損害賠償を、今上天皇に対しては、右記帳所の設置費用相当額を不当利得した昭和天皇を相続したとして不当利得返還を、それぞれ請求した。

 @まず、第一審の千葉地裁の裁判長は、天皇は民訴法224条(新法133条)の当事者たりえず、被告として天皇が記載されている訴状は補正の余地がないとして訴状を却下したが、Xが即時抗告。

 A抗告審の東京高裁は、本件は、明示的には民訴法228条1・2項(新法137条)に定める訴状却下事由のいずれにも当たらず、仮に天皇の法的地位および本件請求の内容に照らし、右請求を不適法とすべき事由があるとしても、訴えを却下すべきであって、訴状を却下することはできないとして、原命令を取り消した。

 B差戻後の千葉地裁は、「天皇の象徴という特殊の地位に鑑み、公人としての天皇に係わる行為・・・に対する責任もまた内閣が負うことになるので、天皇に対しては民事裁判権がないと解すべきである」から、本件訴えは、不定法でその欠缺を補正することができないとして、民訴法202条(新法140条)により訴えを却下した。

 C控訴審の東京高裁は、「仮に、天皇に対しても民事裁判権が及ぶとするなら、民事及び行政の訴訟において、天皇といえでも、被告適格を有し、また証人となる義務を負担することになるが、このようなことは、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であるという、天皇の憲法上の地位とはまったくそぐわない」として、控訴を棄却した。
 Xは、象徴であることは天皇を民事裁判権の対象から除外する理由にならない等として上告した。


【判旨】 上告棄却

 「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権が及ばないものと解するのが相当である。したがって、訴状において天皇を被告とする訴えについては、その訴状を却下すべきものであるが、本件訴えを不適法として却下した第一審判決を維持した原判決は、これを違法として破棄するまでもない。」 


【関連判例】

東京地命令昭和26年2月19日
 「現に皇位にある天皇に対する象徴不適格の訴えは、憲法上認められない。また、裁判所はそれにつき、裁判権を有しない。」

東京高決昭和51年9月28日
 皇后について、「民事裁判権は、原則としてわが国内にいるすべての人に及ぶものであり、皇后が日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴である天皇の配偶者であることは、皇后に対する民事裁判権を否定すべき理由とな」らない。


【学説】

肯定説・・・自然人である以上、天皇に民事裁判権が及ぶのは当然である。

否定説・・・象徴としての地位を理由に天皇へは民事裁判権が及ばないとする。

*明治憲法下の通説
 民事裁判はただ皇室財産の限界を確認するに止まり、あえて皇室の尊厳を害するものではない。


天皇の象徴としての地位は法的意義を持ちうるか。

@統治権の総覧者としての地位を否定するとの消極的意義を持つに止まる。

A天皇の象徴としての地位は、それにふさわしい待遇が与えられることを要請する見解。
 ・象徴にふさわしい待遇の具体的内容は「象徴」の語そのものからは特定されず、憲法典の他の規定や法律をもって定められるべきである。
 ・現行の実体法令における天皇の特殊な取扱を説明するためにこのような議論をするに止まり、「象徴」とされることに何らかの法的効果が発生すれば、それは別に法がとくに定めた結果であり、「象徴」とされるということから当然に流出する効果ではない。


【私見】

 「象徴」としての法的意味を消極的に解し、天皇にも民事裁判権が及ぶと考えるが、「象徴」としての地位をそれにふさわしい待遇を有すると解しても、民事裁判権が天皇に及ぶとすることがただちに、その象徴性を否定することにはつながらないと考える。 


2004.7.24 upload / 7.30 update

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