「憲法・目次」にもどる

152 『選挙権と学生の住所』

最高裁昭和29年10月20日大法廷判決 (民集8巻10号1907頁、判時37号3頁)


2000年11月29日(水) M 


<事実の概要>

 茨城大学生Xら47名は、茨城県渡里村に所在する同大学学生寮に入寮し修学中の者であったが、Y(同村選挙管理委員会)が昭和28年9月15日現在により調製した基本選挙人名簿を縦覧したところ、Xらの氏名が脱漏していることを発見したので、Yに異議の申立をした。
 Yは、Xらは学生寮に居住しているとはいえ、学資その他の経費の大半を郷里の父母の仕送りに依存し、休暇には郷里に帰省し、両親と独立して生計を営むものではないから、その住所はそれぞれ両親の住家の所在地であって同村に存するとは認められないとの理由で、Xらの異議申立を棄却した。
 そこで、Xらは、この棄却を争って水戸地裁に出訴した。


<判旨>

 水戸地裁は、公職選挙法の住所は、政治的地縁関係が最も直接的な土地で、選挙権の講師が最も適正に行われるところでなければならない。そして、Xらが休暇に際して帰省するほか、年間を通じてその大部分を学生寮において起居し、主食の配給も渡里村で受け、住民登録も同村においてなされていたことなどの事実を認定し、このような事情の下では、寮を学生たる自己の市民生活の場所として過ごす予定の下に、入寮以来現実に居住してきたものであるから、寮の所在地がXらの住所にほかならないとして、Xらの請求を認容し、Yの決定を棄却した。

 最高裁は、「およそ法令においては人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をなすべき特段の事情のないかぎり、その住所とは、生活の本拠を指すものと解するのを相当とする」としてうえで、「Xらの生活の本拠は、いずれも、本件名簿調整日まで3ヶ月間は渡里村内の学生寮にあったものと解すべく、一時的に同所に滞在又は現在していた者ということはできないのである。従って、原判決がXらは本件渡離村基本選挙人名簿に登録されるべき者とし、これに反するYのした決定を取り消したのは正当であるといわなければならない」とYの上告を棄却した。 


<問題点>

公職選挙法9条2項の住所の意義
 〜選挙権の保障(15条1項・3項)を事実上制限することになるのではないか。


<問題の経緯>

・昭和2年9月23日(内務省地方局長回答)
 学資の全部又は半ばを郷里から送付され、休暇ごとに帰郷する者の住居は郷里に在るものとして取扱う。

・昭和21年5月22日(内務省地方局長通達)
 修学のための寮、寄宿舎又は下宿等に居住している学生、生徒の住居は、原則として、寄宿舎又は下宿等の所在地にあるものとする。

・昭和27年6月13日(仙台高裁)
 Xの両親は、以前から五戸町に居住し、大学生Xは休暇ごとに帰省し両親と独立して生計を営むものではなく、両親の住家を生活の本拠とするものであることが認められることから、本件選挙当時のXの住所は、五戸町にあるものといわなければならない。

・昭和28年6月18日(自治省選挙部長通達)
 寮、寄宿舎又は下宿などに居住している学生、生徒の住所は、単に居住の事実のみをもってその居住地にあるものとすべきではなく、学資の大判を郷里から仕送りを受け休暇等に帰省する者の住所は郷里にあるものとしなければならない。


<学説>

・住所単数説
 複数の住所を認めることは法律関係を混乱させる。

・住所複数説
 人々の生活関係が複雑多様化した今日においては、各種の生活関係に応じた複数の住所が認められるべきである。


<私見>

 どこを生活の本拠とするかは各人によって違うと思うし、学生・単身赴任者など現在の日本において複数の住所を持つ人は少なくない。また、国政選挙の比例代表に限ってではあるが、在外投票が認められるようになった。そこで、原則として住民票のあるところを基準としてうえで、各人の政治的地縁の深い場所での投票を選択できるようにするのが望ましいと考える。 


2004.7.23 upload / 7.29 update

「憲法・目次」にもどる
「トップページ」にもどる