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U−138 『教育を受ける権利と義務教育の無償制の意義』
  教科書国庫負担請求事件


最高裁昭和39年2月26日大法廷判決
(昭和38年(オ)第351号 義務教育費負担請求事件)
(民集18巻2号343頁、判時363号9頁)


平成12年12月13日(水)   Y 


【事実の概要】

 公立小学校2年に在学する児童の保護者たる原告は、原告が支払うべき義務教育期間中の教科書代金総額5836円について、憲法26条により国が負担すべきであるという理由から、同代金の徴収行為の取消および同金額の原告への支払いを東京地裁に求めた。

 第一審東京地裁昭和36年11月22日判決は、徴収行為の取消については却下し、支払いを求める部分については、憲法26条2項後段の法的性格は、「国に対し、財政負担能力などの関係において、右責務を具体的に実現すべき国政上の任務を規定したにとどまり、個々の保護者はこの規定により義務教育に伴う出費の補償を国に求める具体的権利を有するものではない」という理由から、請求を棄却した。
 そこで、原告は、その子が小学校1、2年の間に必要とした教科書代金865円の償還と、義務教育終了まで予想される教科書代金5836円の徴収行為の不作為をも併せ求めて東京高裁に控訴した。

 東京高裁昭和37年12月19日判決は、憲法26条2項後段について、憲法が直接定めているのは授業料を徴収しないことだけで、その他の費用は立法をまってその負担を定めるべきものという理由で、控訴を棄却した。
 そこで最高裁に上告され、最高裁は全員一致の意見で上告を棄却した。


【判旨】

 「憲法26条は、すべての国民に対して教育を受ける権利を保障すると共に子女の保護者に対し子女をして最小限度の普通教育を受けさせる義務教育の制度と義務教育の無償制度を定めている。しかし、普通教育の義務制ということが、必然的にそのための子女就学に要する一切の費用を無償をしなければならないものと速断することは許されない。けだし、憲法がかように保護者に子女を就学せしむべき義務を課しているのは、単に普通教育が民主国家の存立、繁栄のため必要であるという国家的要請だけによるものではなくして、それがまた子女の人格の形成に必要欠くべからざるものであるということから、親の本来有している子女を教育すべき責務を完うせしめんとする趣旨に出たものであるから、義務教育に要する一切の費用は、当然に国がこれを負担しなければならないものとはいえないからである。」

 憲法26条2項後段の意義は、「国が義務教育を提供するにつき有償としないこと・・・を定めたものであり、教育提供に対する対価とは授業料を意味するものと認められるから、同条項の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である。そして、かく解することは、従来一般に国又は公共団体の設置にかかる学校における義務教育には月謝を無料としてきた沿革にも合致するものである。また、教育基本法4条2項および学校教育法6条但書において、義務教育については授業料はこれを徴収しない旨規定している所以も、右の憲法の趣旨を確認したものであると解することができる。それ故、憲法の義務教育は無償とするとの規定は、授業料のほかに、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものと解することはできない。」

 「もとより、憲法はすべての国民に対しその保護する子女をして普通教育を受けさせることを義務として強制しているのであるから、国が保護者の教科書等の負担についても、これをできるだけ軽減するよう配慮、努力することは望ましいところであるが、それは、国の財政等の事情を考慮して立法政策の問題として解決すべきであって、憲法の前記法条の規定するところではないというべきである。」

*「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」(昭和37年法律第60号)および「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」(昭和38年法律第182号)が制定されたことによって、現在、義務教育用教科書は無償となっている。


【学説】

 憲法26条2項後段の義務教育の無償の範囲について、現在の学説は次の二説に大別される。

*授業料無償説
 憲法26条2項後段が直接規定している範囲を授業料と解する見解。
 授業料以外の費用については、憲法が直接規定することなく、立法や予算による具体化が予定されているが、立法府が授業料以外の費用についてその裁量権を逸脱した場合には違憲となる余地が残されていると考える。

*修学費無償説
 授業料のほかに、教科書代金、教材費、学用品等修学までに必要な一切の金品を無償とする見解。
 教育を受ける権利は、教育を受けることにより、各人が将来の労働や生活の基礎的な技術や知識を習得する権利なのであるから、単に就学するのに必要な授業料の不徴収にとどまらず、修学するまでに必要な一切の教育費が無償とされることによって、その権利が権利として保証されることになると考える。


【私見】

 憲法26条2項後段から直接裁判上主張しうる権利として導き出されるのは、授業料の不徴収の範囲内であると思う。授業料以外の費用の負担が一定の限度を超えて、子供の教育を受ける権利を実質的に侵害する程度に至った場合の様に、立法府が裁量権の範囲を逸脱した場合には違憲になりうると解するのがよいのではないだろうか。 


2004.7.24 upload / 7.28 update

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