
結び おわりに
今回のテーマの出発点は民事訴訟法312条1項で上告理由が制限されたこと、及び、318条1項で裁量上告制度が採用されたことが、憲法32条で保障されている裁判を受ける権利を侵害しないかということにあった。
裁判を受ける権利を侵害しているというためには、まず一つの方法として、三審制が憲法上の要請であるということを言わなければならない。そもそも二審制でもいいのであれば、このようの問題は生じてこないからである。しかし、このことはどうであろう。第三章二節でも取り上げたが、三審制は憲法上の要請とは言うことはできないのではないだろうか。判例や学説も言っているが審級制度を如何にすべきかについては、憲法からは読み取ることができないからである。実際、刑事訴訟法では上訴制限は認められているし、民事訴訟でも上告等の制限に関して、高等裁判所が上告審としてなした終局判決に対する特別上告を制限した旧民事訴訟法393条3項(註1)、仮差押え、仮処分事件の上告を制限した旧民事訴訟法393条3項(註2)などに関して裁判所も必ずしも三審制の憲法上の要請はないとしている。したがって、今回だけに関して、三審制を憲法上の要請であるとする根拠はないのではないかと思われる。
また、裁判を受ける権利の内容からみて、上告制限は違憲であると考えることができるだろうか。しかし、この点からも上訴制限を違憲であると考えるのは難しいように思われる。多くの通説は適法な訴えの提起があった場合には必ず裁判を行うべきだ、つまり「裁判の拒絶」は許されないと言っているにとどまり、どのような法が適法かどうかの判断にまで、裁判を受ける権利から言えるかどうかは言及してはいないからである。しかし、このように捉えると裁判を受ける権利が非常に弱い権利になりえるため、笹田教授の言うように「裁判を受ける権利は、利益の実現の機会の実効的保障をめざすものであり、その実現機会をかたちづくる手続・制度に密接に関わる(註3)。」とする考えは評価できると考える。
では、上訴制度は以上のように一概に違憲であるとは言えないが、多少ながらも違憲の恐れのあるような制度はどうしても必要であったのか。これは他には代替手段がなかったのかという議論につながってくる。このことに関しては、第一章第一節の(8)で取り上げた最高裁の機構改革論が特に重要に思われる。この中で、最高裁の機構改革案の中で、日弁連の意見書、最高裁の意見、衆院法務委員会小委員会の意見。法務省より取り上げられた乙案を紹介した。これらの案は、最高裁の人数、最高裁の審査対象、最高裁の負担軽減を考えた新制度、などが議論されている。この中で特に評価できるのは最高裁の意見書である。他の意見は最高裁の人数を増やすことにより、負担を減らそうとしているのに対して、最高裁の意見は、一般法令違反に対しては別の上告機関を設けて、最高裁は小人数で、違憲、判例抵触、その他重要と認めたものだけ扱うとしているからである。もちろん、人数を増やすことは一つの解決策になるかもしれないが、これは「法令解釈の統一」という、上訴の目的の一つに影響を及ぼすことにもなりかねないのではと考える。今の15人でさえ、議員定数不均衡判決など様々な事件で最高裁の裁判官の意見が分かれているのだから、30人以上となれば、その危険性はより増大するように思われる。やはり、選ばれた小人数で議論する方がより統一した見解が出てくるように感じるからである。
では最高裁の意見書の中にあった別の上告機関を設けるのはどうであろうか。これは第五章第二節で取り上げたアメリカの中間上訴裁判所のシステムに似ているように思われる。もちろんこの上告機関を上訴制限そのものが確立していない我が国においては、その裁判所の役割や位置づけ、その裁判所への上訴制限やそこで不服があった際の最高裁への上訴制限、裁判官の選任方法や位置づけ、など様々な問題を解決して整備していかなければならない。しかし、裁判官の負担を軽減する一つの方法として、今後検討していってもいいように思われる。
以上のように我が国の民事訴訟の上告制限を検討してきたが、この制度は裁判を受ける権利、もしくは三審制の制度からも意見の問題は生じてこないと考える。特に、裁判を受ける権利から見ると、上告理由(民訴312条)の制限だけならば違憲の問題も生じてきていたのかもしれないが、裁量上告(民訴318条)を設けたことにより、最高裁への上告が全く閉ざされたわけでなくなったので、それは避けられたように思われる。しかも、第四章でもみたように、諸外国に目を向けてみると、上訴制限は決して珍しいわけではなく、普通に取り上げられてきた制度でもある。
最高裁の民事訴訟法318条にもとづく、上告受理件数は1998年が661件だったのに対して、1999年は1542件と二倍以上になっている。この数字からみると今後、この数は増えることになると予想される。そうなると、裁判官への負担は、それほど少なくなったとは言えなくなるのではないだろうか。そうなるとこのような上告制限だけでなく今後は裁判所の構造そのものも、中間上訴裁判所を設けるなど、検討していかなければならないし、今後の裁判制度への課題の一つではないだろうか。