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第五章 アメリカの上訴制限の検討  

第一節 アメリカの上訴制度を検討する根拠
今まで紹介してきたように、上告制限の方法として上告審が上告を認めるか否かの裁量権を有する裁量上告制度と原審が上告を認めるか否かを決定する許可上告制度がある。既に紹介したように、ドイツでは、民事訴訟に関して、不服額が6万マルク以下の財産権上の請求にかかる事件および非財産上の請求にかかる事件については許可上告制度をとっており不服額が6万マルクを超える財産権上の請求にかかる事件については、裁量上告制度を採用している。これに対しアメリカはアメリカ合衆国最高裁への上告は裁量上告制度が採用されている。日本の民事訴訟法も裁量上告制度を採用しており1998年から施行された新民事訴訟法はアメリカの制度を参考にしたと考えられる。よって以下アメリカの上訴制度を中心として検討していく。

第二節 アメリカの上訴制度
(1)アメリカの上訴制度の概要(註1)
アメリカには、連邦、州とも、事実審裁判所と上訴裁判所とが設置されていたが、人口の増加と事件負担の増大にともなって、最上位の裁判所の負担を軽減する目的で、中間上訴裁判所(intermediate appellate court)を設けるところが増えてきている(註2)。一審裁判所の判決に対しこのような中間上訴裁判所に対する上訴、及び、中間上訴裁判所が設置されていない州における上訴裁判所への上訴には、特別の制限はない。 上訴裁判所は、事件について再び事実審理を行うのではなく、原則として、事実審裁判所の記録審査により、破棄事由となる瑕疵の有無のみを調査する。各州の中間上訴裁判所の判決に対し、各州の最上級裁判所への上訴は、権利上訴が認められるとしても、それは州又は連邦の憲法問題を含む場合だけであり、その他の場合にはサーシオレーライ(certiorari)のみを申立てることができる。連邦控訴裁判所の判決に対する連邦最高裁判所への上訴は、常にサーシオレーライ(certiorari)のみを申立てることができ、その許否は連邦最高裁判所の裁量による。

(2)年度開廷期(annual term)(註3)
アメリカの連邦最高裁は日本と異なり常に開廷されているわけではない。一年のうち一定期間だけ開廷する年度開廷期(annual term)の制度を採り入れている。年度開廷期は、毎年10月の第1月曜日に始まり翌年の6月末、または7月はじめに終わる。それから9月末までは休暇に入る。ただしこの休暇は絶対的なものではなく休暇中であっても、緊急の要件が入れば、その処理をしなければならない。
 このような年度開廷期はさらに区分開廷期(segment term)に分けられる。つまり一つの月を最初の2週間を開廷の2週間と、それに続く2週間を非開廷の2週間とする。最初の2週間に関しては月曜、火曜、水曜の3日間、法廷を開いて口頭弁論を聴く。そして非開廷の2週間は、法廷を開かず、他の仕事をする。そして事件についての審議は2週間の開廷期間中に行われる。つまり水曜日の午後には、月曜日に弁論を聴いた事件について、金曜日には、火曜日及び水曜日に弁論を聴いた事件について審議がなされる。このような区分開廷期は4月末または5月はじめまで続き、その後年度開廷期の終わりまでの2ヶ月間はその年度の開廷期に審議した事件でまだ判決が言い渡されていない事件に対しての判決の言い渡し等がなされる。

第三節 サーシオレーライ(certiorari)
我が国の民事訴訟法には今回のテーマである上告制限に関して、裁量上告の制度が設けられた。先ほど述べたようにこの制度はアメリカのサーシオレーライの制度を参考にしている。よって我が国の裁量上告について検討する際アメリカのサーシオレーライについて検討する意義はあるように思われる。確かに詳細にわたり日本とアメリカの裁判制度が異なるため一概に比較することはできないが、日本の裁量上告制度を検討する際参考となるところは多いように思われる。

(1)サーシオレーライ制度の起源
 現在理解されているところのサーシオレーライが設けられたのは、1891年である(註4)。これは連邦最高裁の負担が大きかったため、1891年に連邦議会が一定の範疇の事件について義務的管轄からサーシオレーライによる裁量的管轄に移す法案を成立させたことに始まる。その後現在の制度を基本的に確立したのは、裁判官法案(Judges' Bill)と呼ばれる1925年裁判法(Judiciary Act of 1925,43 Stat.936)の成立によってである(註5)。

(2)サーシオレーライの許否の方法(註6)
 では、このようなサーシオレーライの判断基準はいかにして行われているのであろうか。この検討は新しく裁量上告が設けられた我が国の制度を見直す上で非常に重要な役割を果たすことになる。つまりこの裁量の方法次第では憲法32条で保障されている裁判を受ける権利を侵害することになりかねないため、そのような問題を生じさせないためには裁判所の裁量作業を慎重に行われなければならないからである。
 連邦最高裁判所への上告のためには、まず連邦最高裁判所に対し上告人側がサーシオレーライの申立(petition for certiorari)をする。この申立書の中から裁判所書記官が用紙の大きさやタイプの活字の大きさなど最高裁の定めたルールに従った適式なものであるか否かが調査される(註7)。次に各裁判官は、その申立書を読んで、審理の価値があるか否かを判断する。その際、多くの裁判官は自分のロー・クラーク(註8)にアシストを命じる。そして首席裁判官によって裁判官会議での議論と投票に値すると判断された事件を載せた「討議事件リスト(discuss list)」を作成して各陪席裁判官に回付する。このリストに載った事件が裁判官会議で議論されることになる。そして正式にサーシオレーライの申立が認められるためには裁判官会議での判断が必要となる。その際、働くのがルール・オブ・フォア(rule of four)という原則であり、9名中4名の裁判官の賛成によって裁量が決まることになる(註9)。アメリカのサーシオレーライと日本の裁量上告制度は細部に渡り異なることが多いかもしれないがこの点が大きく異なるところである。日本の民事訴訟法は民事訴訟法318条1項において決定で決めることとなっているためおそらく、我が国の前例から判断すると多数決になるであろう。つまり15人の裁判官を3つの小法廷に分けるため、1つの小法廷の人数を5人とすると、3人以上の賛成がなければ受理することにはならないであろう。
 上記のような作業は区分開廷期の非開廷である後の2週間で行われる。また区分開廷期の2週間の開廷期間中でも金曜日には、火曜日および水曜日に弁論を聴いた事件を審議するとともにサーシオレーライの申立についても審議される。また年度開廷期が終わり2ヶ月間の休憩期間中に提出されたサーシオレーライの申立については次の新しい年度の開廷期の始まる前、つまり9月の終わり頃にこれらの審議等がなされる。
 そしてこのような判断を得てサーシオレーライの令状(writ of certiorari)が発せられ、上告審としての審理判決がなされる。申立のなされる事件の数は非常に多いのであるが、その中から少数の事件についてのみこの令状が発せられ、連邦最高裁判所は、その事件についてのみ審理判決をする。選ばれた少数の事件だけが、上告事件としての審理の対象となり、その他の事件は審理の対象とはならない。実際の統計をみてみると1999年10月4日に始まって2000年10月1日に終えた開廷期における上告件数は最終上告審として判決を下した判決数は73件であった(註10)。これは1950年代初期以来最も少ない数字となる。

(3)サーシオレーライの拒否の基準
最高裁判所規則10条1項によれば、サーシオレーライの許可される一応の基準は、判例抵触、重要問題、訴訟手続きの監督の3つの項目に関わるものとされている。ただし、サーシオレーライの拒否の基準を占める最高裁判所規則はたびたび改正されており一定に定まっていない。連邦控訴裁判所は、一定の訴訟においては州法に従うべきであるという州の司法制度への信頼と示すとともに、連邦最高裁によるサーシオレーライの拒否については、より公共的な問題、より国家的重要性の高い問題を考慮するべきである(註11)。
ではサーシオレーライの拒否の理由としてどのようなものが考えられるか。まずサーシオレーライの実質的な拒否の理由として事件の種類が考えられる。しかし訴訟救助(forma pauperis)事件、連邦刑事事件の被告人による支払い済申立がなされた事件、州の刑事事件の被告人による支払い済申立がなされた事件、州裁判所の判決に対する不真正な連邦問題を理由とする上訴事件、本人訴訟事件、連邦最高裁の裁判官会議で判断が留保された事件、はサーシオレーライの拒否を判断する際あまり考慮にされていないようである(註12)。
 次に各事件の抱えている法的問題の重大さが理由として考えられる。もちろん法的問題の重要さは必要であるがその論点が下級審でどのように判断されたか、それまでの解釈との関係、下級審の判決が正しいものかなどさまざまな要因が絡んできており相対的なものであるとされている。また憲法事件は重要なものと考えられるが1988年法(註13)によって、これまで権利としての上訴が認められていた連邦法を違憲とする下級審の裁判は、連邦裁判所のサーシオレーライ管轄に移されたため、常にサーシオレーライが認めらるわけではなくなっている(註14)。
 上記のようにアメリカのサーシオレーライの制度においてもサーシオレーライの申立の具体的基準が明確であるわけではない。つまり各裁判官の感覚に基づく判断の尊重の必要性などの理由により、基本的に不可能であるとさえいわれている。またこのような点を指摘して許可基準の不明確性は、連邦裁判所にケース・セレクションについてのほぼ無制限の裁量権を確保しているとする見解も存在している(註15)。



(註1)上野泰男「上訴制限について」関大法学43巻1・2号773頁(1993年)。
(註2)現在中間上訴裁判所が設置されていないのはモンタナ(MONTANA)州、ネヴァダ(NEVADA)州などをはじめとした12州のみである。(参照)浅香吉幹『現代アメリカの司法』205頁以下(東京大学出版会、1999年)。
(註3)島谷六郎「アメリカ最高裁の審理手続」判タ924号44頁(1997年)。
(註4)紙谷雅子「上訴裁判管轄―アメリカの社会における合衆国最高裁の役割―」アメリカ法6頁(1990年)。
(註5)大沢秀介「最高裁判所と憲法裁判」『岩波講座 現代の法 5 現代社会と司法システム』49頁(岩波書店、1997年)。
(註6)大沢秀介「最高裁判所と憲法裁判所」公法研究第59号189頁以下(1997年)、島谷・前掲注(3)44頁以下参照。
(註7)しかし、これには例外があって、訴訟救助事件(forma pauperis)の当事者から出される申立書に対する審査はこの限りではない。
(註8)各裁判官の補助人のことをいう。我が国の最高裁調査官とは異なり、ロー・スクールを卒業して間もない者がなるためその役割は重要なものではないと一般に考えられていた。しかしその後サート・プール(cert pool)制の成立によって役割は重要なものとなってきた。この制度はロー・クラークが、サーシオレーライのためのメモ作成を共同分担して行い、メモはそこに参加しているすべての裁判官が共有するという制度である。
(註9)島谷六郎「サーシオレーライ」判タ824号4頁(1993年)。
(註10)浅香吉幹他「合衆国最高裁判所1999―2000年開廷期重要判例概観」アメリカ法2巻237頁〔寺尾発言〕(2000年)。
(註11)服部高顕「裁量的上訴制度としてのcertiorari制度」『末延三次先生還暦記念 英米私法論集』318頁(有斐閣、1963年)。
(註12)大沢・前掲注(6)190頁。
(註13)連邦最高裁の義務的上訴管轄権を原則的に廃止し、サーシオレーライ管轄のみとした。紙谷・前掲注(4)5頁。
(註14)大沢・前掲注(6)191頁。
(註15)宮城啓子「合衆国最高裁におけるケース・セレクションの研究(一)−プロヴィン教授の著書の紹介を中心とした裁量上告制度の予備的考察―」成城法学16号117頁(1984年)。

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