第二章 上訴制度の意義  

第一節 上訴制度の目的
 上訴制度の目的については以前より学説上大きく分けて二つある(註1)。一つは上訴審において下級審の不当判決から当事者を救済し、権利の実現を図ることを上訴制度の目的とする権利保護目的説(註2)と、最終的な唯一の最高裁判所による法令の解釈適用を上訴目的とする法統一目的説(註3)があげられる。
 新堂教授はこの両者の説の内容と関係について以下のように述べている。「(上訴制度は)不当な裁判によって受ける不利益から当事者を救済する制度である。裁判に対する信頼を獲得しその権威を保持するには、裁判の適正をはからなければならないが、特に当事者に不満があるならば、上級裁判所に反復審判をさせることによって過誤を少なくして当事者の救済を完全に保障する必要がある。上訴制度は、なによりもまず、この要請に答えるものでなければならない。裁判所は上級審にいくにつれてしだいに数が少なくなり、最後は、唯一の最高裁判所にいたるから、上訴を機会に、裁判所による法令の解釈適用が統一され、法的安定性がえられる。しかし、この機能は、あくまでも具体的事件における救済を求める当事者の上訴を通じてえられる結果であり、当事者の救済という目的に優越するものと解すべきではない。(註4)」。つまり上訴制度の目的として当事者の救済と法令解釈適用の統一の二つが存在するがより重要なのは当事者の救済の方だとしている。またこの二つ以外にも迅速及び公平の要請との調和も必要であるとし「裁判の適正の要請も訴訟制度にとって重大であるが、これも当事者に不服がある限度に満たされるにとまるとともに、上訴に関しては、迅速処理の要請がこれにおとらず重要である。(註5)」と述べている。
 その他最高裁判所は法律審をその他の下級裁判所は、事実審を行うためその役割分担に着目して、控訴審では権利保護、上告審では法統一を上訴制度の目的とする折衷説も存在する(註6)。
 次に、これを上告制度の目的に絞って考えてみると法統一説が多数説として存在し少数説ながら有力な見解として権利保護説が展開されている(註7)。しかし、この上告制限の目的に関しても上訴制度の目的の際、権利保護説を主張していた新堂教授は以下のように一貫した考えをもち、権利保護の優越を主張している。「上告は、控訴に比べて、はじめから制限された不完全な上訴であるが、やはり、不当な裁判から不利益を受ける当事者を救済することを第一の目的とした制度と理解すべきである。上告の理由が法令違背に限定され、かつ、上告によって数すくない上告裁判所の判断が示されることから、上告制度は、法令の解釈適用を全国的に統一し、法律生活の安定をはかるという機能をはたすことができる。この機能を十分にはたさせるためには、政策論として、上告裁判所をできるだけ少なくし、できれば唯一の最高裁判所が取り扱うようにすることが望ましいし、また無闇に多数の事件のために上告裁判所の負担を過大にならないように上告理由の制約等を配慮する必要があろう。しかし、法令の解釈適用の統一という作用は、あくまでも、当事者による上告の提起を介してのみ考えられるものであり、上告審手続の開始そのものが当事者の意思と出費によるものである以上、当事者の具体的救済を無視した法令解釈の統一作用をなすべきではない。(註8)」
 これに加えて、上告は当事者救済と法令解釈適用の統一という複合矛盾的な目的を有しているという説もあった(註9)。これは旧民事訴訟法では、ドイツにのような上訴制限を設けておらず、権利上告のみを認めていたため出てきた説であり、現在の民事訴訟法ではこの説の根拠は失脚しているように思われる。

第二節 裁量上告制度の位置づけ
 このように上告制度の一般的な目的を検討したうえで裁量上告制度についてもその目的論からの位置づけを検討してみることにする。
 民事訴訟法の改正議論の中では裁量上告制度に対して上告目的論から批判を加える立場も存在した。例えば、弁護士会は要綱試案に対する意見書の中で以下のようにして裁量上告制度を反対していた。(第一章第三節参照)
 「法令解釈の統一というのも、個々の具体的事件における当事者の救済を通じて行われるべきものであり、具体的事件における当事者の救済を離れて法令解釈の統一のみを図るのが最高裁判所の任務ではない」
 以上のような見解からは裁量上告制度を正当化することは難しいように思われる。しかし権利保護目的説を中核としながら正当化していくことは可能ではないだろうか。今回の裁量上告制の採用は年間4000件以上に及ぶ民事・行政訴訟の最高裁負担軽減にあった。この負担軽減の方法としては上告そのものを何らかの形で制限するか、裁判制度そのものを変えてしまうかのいずれかになったであろう。しかし後者については現段階では見込みがないため前者の方法を取ったことになる。このことによって迅速な紛争処理が以前よりも可能になり当事者の権利保護に結びつくと考えることができる。つまり今回の裁量上告制度の位置づけは権利保護目的説の立場から正当化することができるであろう。



(註1)木川統一郎・中村英郎編『民事訴訟法』303頁(青林書院、1997年)。
(註2)新堂幸司『民事訴訟法』〔第二判補正版〕541頁(弘文堂、1990年)。
(註3)兼子一「上訴制度の目的」民事法研究第2巻171頁(酒井書房、1956年)。
(註4)新堂・前掲注(2)541頁以下。
(註5)新堂・前掲注(2)542頁。
(註6)山本和彦「上訴制度の目的」ジュリスト増刊民事訴訟法の争点〔第三版〕288頁(1998年)。
(註7)山本・前掲注(5)288頁。
(註8)新堂・前掲注(2)562頁。
(註9)小室直人『上訴制度の研究』133頁(有斐閣、1961年)。

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