序章 はじめに
わが国の民事・行政事件の最高裁判所への上訴件数は、年間3000件とも、4000件とも言われていた。この件数は、最高裁判所の裁判官の数が15人とされているわが国においては、非常に多いとされていた。このような状況のもと1990年7月に、「国民にとって利用しやすく、分かりやすい民事訴訟手続」の実現をキャッチフレーズに、民事訴訟法改正の手続が開始され、その後さまざまな議論が尽くされた後、1996年に民事訴訟法の大改定が行われた。その改正の中で、非公開の弁論準備手続や、小額訴訟の手続に関する特則などが盛り込まれたなか、最高裁判所に対する上告制度の改正が行われた。その際、「最高裁の機能の充実」という目的で上告制限が行われることとなった。そこでは、従来からみとめられていた権利上告(民訴312条)に加えて、裁量上告(民訴318条)が新設された。また、権利上告も、旧民事訴訟法の上告理由であった「判決ニ影響ヲ及ボスコト明ナル法令ノ違背」が削除された。このため、上告できる範囲が非常に狭くなり、上告側が上告したくても上告できないことも生じてきた。
このような上告制限は憲法学の立場からみて違憲の問題が生じてこないだろうか。憲法では23条で裁判を受ける権利が保障されている。しかし、民事訴訟法318条で上告は裁判官の裁量に任されているとされているため、上告側が上告したくても上告できないことが生じてきたのである。このことは裁判を受ける権利を侵害することにはならないだろうかという問題が生じてくる。
このような疑問から、ここでは様々な角度からこの問題を検証していきたいと思っている。まず、今回の上訴制限の制度である。このことに関しては、民事訴訟法の制度だけではなく、今の制度に至るまでの経路を上訴制度の沿革から検討していきたい(第一章)。上訴制度の沿革をみることにより、今まで考えられてきた上訴に対する目的や様々な制度の可能性が浮き彫りになると考えるからである。このような上訴制度の沿革をみた後に、上訴制度の目的(第二章)を検討していきたいと考える。これは上訴制限を考える際、この目的がはっきりしていないと、わざわざ権利上告の範囲を狭くした今回の改正の趣旨が見えてこないと考えたからである。そして、このような検討をした後、憲法との関連について考えていきたいと思う(第三章)。ここでは、裁判を受ける権利を始めとして、民事訴訟法上での「訴権」との関連や「訴えの利益」との関連についても検討していきたい。次に、諸外国の制度(第四章)を紹介していく。諸外国では、上訴制限は頻繁に行われておりわが国の制度の参考になると考えたからである。最後に、アメリカの制度について検討していく(第五章)。アメリカではサーシオレーライが採用されており、今回の民事訴訟法改正の際参考にされた制度でもある。
以上のような段階を踏まえて、わが国の民事訴訟法における上告制限と憲法問題について、一つの答えを出していきたいと考えている。